制作秘話であるとともに実用的SF映画案内

公開日:2012/12/5

GANTZなSF映画論

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 集英社
ジャンル: 購入元:電子文庫パブリ
著者名:奥浩哉 価格:540円

※最新の価格はストアでご確認ください。

映画論というより、偏愛するSF映画に対するオマージュとレビューというおもむきなの本なので気軽に読んでいただきたい。

著者はA級映画とB級映画の違いを次のように定義する。
A級 制作費が多く知的興味が刺激され、内容にも破綻がない
B級 低予算で内容が無茶苦茶であっても、とにかくおもしろい

advertisement

『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』はA級じゃないのかとか、ロジャー・クリスチャンの『バトルフィールド・アース』はどうすんのかとか、いささか異論のむきもあろうが、ヨーロッパ映画は論の対象外だし、あくまでも著者の好みによる差別化だとここはスルーしておくとして、なによりも、おもしろい映画の条件はまず第一に制作費の多さ、と断言するあたりがさすがあの大エンタテインメントコミック『GANTZ』を生み出した著者だけあると、私は感心した。

A級の名に恥じない作品は、圧倒的にハリウッド映画にありと著者はいう。そうして、あまたの作品名を列挙しながら、ストーリー解説とともにその作の急所を紹介していくのがこの本だ。

たとえばスピルバーグの『バック・トゥー・ザ・フューチャー』がなかったら、いまの自分もなかったろうと影響の大きさを吐露する。

同作の前半各所に巧妙にはめ込まれた緻密な伏線。後半の、歴史を変えないために費やされる試みのハラハラドキドキ、そして動くタイムマシンという画期的なアイデアを成功させたデロリアンという車の未来的なシェイプ。

この映画によって、まだ誰も見たことのない風景を、臨場感をこめて描くという理想が著者の中に芽生えた。

また、突っ込めばいささか脆いシーンはあるものの、圧倒的な物量感と壮大さを見せつけたローランド・エメリッヒの『インデペンデンス・デイ』も作画する上で強烈な刺激を受けたという。

あるいは、『ジュラシック・パーク』における恐竜の肌のざらざらとした質感、CG画像が一変した瞬間だったと語るあたりは自作にもコストパフォーマンスを無視してでもCGを導入する著者ならではの感想だと思う。

この本のおもしろさは、著者の仕事のクロニクルを開陳するだけにとどまらず、実は、格好のSF映画案内にもなっているところにある。
スピルバーグの『激突』、バーホーベンの『ロボコップ』、リドリー・スコットの『エイリアン』、キャメロンの『アビス』などなど、読み手の映画欲をいたくそそる記述が次から次とあらわれる。

私見を恥じずに述べさせてもらえば、アレックス・プロヤスの『ダーク・シティ』がちゃんと数え上げられていたので満足であったのだった。


まえがきからSF映画への偏愛がこぼれ出る