いろんな意味で、チャレンジしてます!
更新日:2013/8/5
この『双子と幼なじみの四人殺し』は第3回GA文庫大賞の入選作です。あとがきなどを読む限りでは本作が森田氏のデビュー作のようですね。
で、なにが言いたいのかというと、「よく挑戦したなぁ」という文章ですよ。創作論で必ずといっていいほど誰もが口にする視点に関する技巧です。
本作の視点は、大まかな分類でいうと神視点になります。ライトノベルはもちろん、一般文芸でも回避されることが多いやつですよ。大沢在昌も、「やめておけ」と断言しています。あの村上春樹だって、神視点はずっと使わずに来たわけですよ。だけどデビュー作にして神視点に挑戦した。
もうひとつ。これまたよくやったな、と思うのが主人公、菱川くんの幼なじみで双子のキャラクターです。菱川くんと同棲しているこの美少女双子の言動がテンプレートから外れているんですね。構図はライトノベルのテンプレートなのに、ずっとつきまとう違和感。それは冒頭で首をつってしまう菱川くんと双子の両親の事件と、関係しています。
構図は一見したところハーレム系のラノベなのに、ストーリーは人がぽんぽんと死んだり傷ついたりしていく。扉絵を見る限りではバカエロ路線のはずなのに、本編は謎解きものとしてのミステリほどの軽さで人の命が失われていく。『謎解きはディナーのあとで』程度の軽さ、がウケているのに本作はケガの描写ひとつとっても、非常にそこだけが生々しい。一応の探偵役として登場する養護教諭も、(ライトノベルの)キャラクターとしては、型破り。
ネットで見かける本作への否定的なレビューは、おそらく「これは俺の知っているラノベじゃない」ということに起因していると思うんですよ。でもね、二度読みしたのでわかったのですが、著者の抱えている「正義とは?」というテーマは明確だし、過去の事件を隠し、引きずる主人公らが新たな事件に放り込まれるという流れは定番です。『ゼロの焦点』のラインといえば伝わるかな。確かに未消化な部分も目立ちますが、ライトノベルが好きで、データベース論などを意識している読者にも、ぜひ読んでいただきたい一作です。
扉絵こそラノベらしいものだが、お約束はここまでだ!
幼なじみはおいしいだけじゃない!?
正義感が暴走すると…
学園ものだとぎりぎりな感じの暴力が待ってます
幼なじみというキーワードに対する著者の思いが感じられます
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