日本の防衛体制に疑問を投げかけるエンターテインメント巨編

小説・エッセイ

公開日:2013/1/17

亡国のイージス 〈上〉

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 講談社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:福井晴敏 価格:750円

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戦争を扱った小説や映画にはどうも弱い。人の死が生々しいからだ。
『ひめゆりの塔』とか『黒い雨』とか『野火』とか、うわぁー駄目だ、指の間からしか読めない、見られない。

でも、『亡国のイージス』は読んだ。4年前に脚を骨折して入院したとき、退屈を紛らすために、とにかく長くてサスペンスフルなものを読まなきゃしょうがなかったからだ。ちなみに『終戦のローレライ』もこのときやっぱり読破した。

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『亡国のイージス』がよかったのは、撃たれた人がほんとは血を流してないみたいに書かれているところだ。あんまり痛がってない。いや、これは悪口でなく、ハリウッド映画みたいに爽快に組み立てられているということだ。アクションはダイナミックに、血はカラッと乾いて。

長大な物語だけにいろいろ伏線が張り巡らされて、メインの太っといとこだけ紹介しよう。

なによりもスリリングなのは、自衛隊による実際の自国防衛システムを骨子とした、シミュレーション小説になっているとこなんである。その効果はもうちょっとあとで説明するが、あまたの機関の名前や装備されている武器名が頻出して、リアルにしやがるのもほどにしろといいたくなる。ならないか。ならないけど、とにかく迫真というやつなのである。

自衛隊が保有する護衛艦イージスは「無敵の盾」を意味する。ある日東京湾に訓練航海に出たイージスに海上訓練指導隊FTGを名乗る十数人が乗り込んでくる。特殊破壊兵器GUSHOがひそかに持ち込まれており、それを調査にきたとリーダーらしき溝口3等海佐はいう。

しかしそのとき、艦底で爆発があり、駆けつけた先任伍長仙石に、立てこもった如月一士が告げる。溝口こそ破壊工作員、朝鮮名ヨンファである。

と、にわかに溝口らの態度が一変、乗組員全員の退艦を要求して、いやあ、とんでもないことがおっぱじまるわけですよ。しかも事態は二転三転して、読者はとても落ち着いていられない。読みながら囓ってるオカキがどんどん増える。

本書の効果は製菓会社が儲かるだけではないのであって、つまり日本の防衛とは現状のままでいいのか、仮想敵国がほんのちょっと本気になって仕掛けてきたら、ひとたまりもないのではないか。その意味で日本はすでに「亡国」なのではないか、そういう危機への警鐘が、明らかに込められている。これによって防衛費を増やすべきと考えるか、平和外交によって乗り越えるべきか、読者に大きなテーマを投げかけているわけである。


登場人物めっちゃ多い。5ページ半。頑張って覚えよう

印象的な導入は、ラストへむかっての遠い伏線である

イージス艦「いそかぜ」は東京湾演習に船出する

乗り込んできました、FTG