【1/26映画公開】艶はいったい何者だったのか? 女が女を語るとき

小説・エッセイ

更新日:2013/1/25

つやのよる

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 新潮社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:井上荒野 価格:626円

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主人公はひとりの女「艶」。つや、といういかにも肉感的なその響きのとおり、彼女はさまざまな男性を誘惑し、彼らに溺れ、幾人かは彼女に人生を狂わされ、その逆もしかり…。要するに、「ファム・ファタル」の要素100%のひとりの女の物語です。

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かかわった人々は多かれ少なかれ、幸せと不幸を同時に味わってしまうような女。それを本人ではなく、彼女が関係してきた男たちの妻、恋人、娘というように二次被害者である女性の視点から、その人生を浮かび上がらせてゆきます。話が入り組みながらもすべての登場人物が関係してゆくその手法は鮮やか。

最後に艶の夫、松生だけが男性の視点から艶のひととなりを語る。一番近い夫のはずが、それでも艶がいったい誰なのか、つかみきれない様子がなんとも切ないです。男と女が関わって、そのそれぞれがまた違う男女と関わって、傷つけ、傷つけられ、そんな関係の輪廻と逡巡の大きな流れに飲み込まれてしまうような物語。

淡々とした語り口と、無駄のない表現が魅力的でどの女の視点も読者の感情移入を容易に誘います。ひとりの人間というのはそれだけで性格や人格が完結しているのではなくて、人生で関係してゆく人間との間で随時変わってゆくものなのかも? 人格というのは相対的なものなのかも? この本を読んでいると、そんな混沌とした気持ちにさせられることしかり。それでいて、嫌な気持ちにならない、見事な1冊。

本作が原作、監督は行定勲、主演阿部寛を筆頭に豪華女性陣によって実現した映画が1月26日に公開されます。


行彦と環希の夫婦の物語は、艶の入る余地もないように見えますが

サキ子の夫は自殺。それが彼女の人生を艶へと結び付けてゆく

ファム・ファタルを、周りの女の視点から浮かび上がらせる手法はお見事