【2/9映画公開】「脳男」ってなんのこと? その疑問そのものが本書のサスペンス
更新日:2013/2/8
脳男
ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader | 発売元 : 講談社 |
ジャンル:小説・エッセイ | 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy |
著者名:首藤瓜於 | 価格:540円 |
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特異な身体感覚を身につけてしまった主人公が活躍するミステリーは、いくつかある。嗅覚が異常なまでに発達してしまったの井上夢人の『オルファトグラム』や、聴覚が消えてしまった音を識別できるほど鋭くなってしまった浅倉三文の『石の中の蜘蛛』などがその代表例だ。この手のミステリーのおもしろさは、かすかなにおいや音から、においや音を越えたさまざまな情報を推理分析によって導きだし、じりじりとターゲットを追い詰めていくサスペンスにある。
ところが、この『脳男』に関しては、それらと似て非なる顔をもっている。もうほとんどこれ以上詳しく書けないほど、主人公の奇怪な脳の構造は、作品のプロット全体と密着している。説明すれば、物語の最も深部をすべてさらけ出してしまうだろう。
中部地方における、名古屋に次ぐ大都市の愛宕市。連続爆破犯の根城に茶屋をはじめとした刑事たちがなだれ込む。そこには、容疑者の緑川のほかに、謎の男・鈴木一郎がいた。こうした逮捕劇の次にカットバック方式で綴られるのは、連続爆発事件の詳細だ。それはそれで犯行に至るプロセスを執拗に追いかける警察小説の見事な手本となってはいるが、いまはそれは省略。物語の中心人物・鈴木一郎に注目したい。結局緑川は逃走し、身柄を確保された鈴木一郎は、共犯者として取り調べを受けることになる。しかし完全黙秘。やがて、鈴木一郎という名も偽名であることが判明し、彼がいったい誰なのか五里霧中の状態に入る。共犯者として裁判にかけられることになるものの、精神鑑定の申し出が出たため、愛和会愛宕医療センターの鷲谷真梨子という精神科医が鑑定にあたることになる。
ここで飛んでもないことが分かってきちゃう。
お話は、冒頭で逃走した爆破犯のさらなる犯行への予兆と、鈴木一郎の動向がクロスしてラストになだれ込むと、こういう具合になってるわけですわ。
なにやら、映画化されるらしく、ダイナミズムあふれるアクションシーンと、鈴木一郎の過去を探っていく知的な推理シークエンスと、両方がうまくミックスされた作品で、映画にはぴったりだと思うのであった。
茶屋一行は爆弾魔のアジトに忍び入る このシーンの緊迫感はいやが上にも物語を高める
カットバック手法で、爆弾事件の詳細が語られる
現場では、容疑者緑川ともみ合っている謎の男が
鈴木一郎は精神鑑定にかけられることに