時代が生んだアンチヒーロー!? 鋭い「斬り込み」の原点はココにあり!

公開日:2013/1/26

塀の上を走れ―田原総一朗自伝

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 講談社
ジャンル:教養・人文・歴史 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:田原総一朗 価格:1,404円

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タイトルの『塀の上を走れ』の「塀」とは、刑務所の「塀」のこと。捕まるスレスレの所を走り続け、しかし絶対に「塀の内側」には落ちない…これが田原氏のジャーナリズム哲学であり、彼の半生を象徴するスタンスでもある。

『朝まで生テレビ!』の舌鋒鋭い過激な司会ぶりで知られる氏だが、かつては東京12チャンネル(現テレビ東京)の敏腕ディレクターとして多数のドキュメンタリー作品を手がけていたそうだ。正直、この本でその事実をはじめて知ったが、いやあ、なかなかエキサイティングというか、かなり「骨のある半生」で驚いた。

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氏は「能天気だから出来たこと」と当時を振り返るが、手がけられた作品はどれも文字での状況説明だけでもスレスレの過激な内容ばかり(おそらく用語や内容への既成が多い現在は放送自体が無理だろう)。取材許可を得るために多少のウソは不問、危ない現場にも臆せず入り込み、番組を撮るためなら娼婦とのセックスにだって応じる…なるほど、こういう圧倒的な体験の裏付けがあるからこその「あの斬り込み」なのかと、ひどく納得。

それにしても、たとえばジャーナリストだからといって、ここまでギラギラと「濃い人生」を送ることは、当たり前だがそうそう簡単なことじゃない。おそらく今どきは、真似しようにも時代そのものが違うようにも思う。戦後という混沌をはらんだ成長期、まだテレビや新聞、雑誌というマスコミの権力が絶対的である社会、今のSNS時代にはないアナログな人の繋がりが生きている時代…そうした時代性も、こうしたアンチヒーロー的な生き方を可能にしているように思うし、本を通じて伝わるその体温の高さがなんだかうらやましくもある。

蛇足だが、田原氏は私の父と1歳違いだ。戦時中に小学生だった父は、よほどつらい体験ばかりだったのか、当時の話をほとんどしてくれない。この本の氏の幼少期の話で、父が育った頃の社会の様子が同じ小学生の目線でわかったことは予想外の収穫であり、とても興味深く読ませていただいた。個人的に感謝したい。


目次より1
軍国少年が感じた疑問など、幼少時の感性がいきいきと語られて興味深い

目次より2
ヤバい話がてんこもりの、東京12チャンネルディレクター時代

本文より

当時の写真も豊富に掲載されている