自分の“直感”、実は、周囲の操作によるものだった!?

更新日:2013/2/19

ファスト&スロー (上)

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 早川書房
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:ダニエル・カーネマン 価格:2,041円

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著者は心理学者でありつつ、ノーベル経済学賞を受賞しブルームバーグの「世界経済に最も影響を与える50人」にも選出。なんで経済学で賞を穫ったかというと、行動経済学の代表的な成果と言われるプロスペクト理論を開発したから。ちなみに、行動経済学は経済学の問題に心理学の考え方を応用した研究分野で、プロスペクト理論とは、それまでの経済学が人間のモデルとして定義していた「物欲の充足だけを利己的に追求するロボットみたいな人間」ではなくて「血も涙も、そこそこ欲もある普通の人間」がどのようにリスクを取ったり取ったつもりで大失敗するかってことを研究した理論だそうです。

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この上巻は、第1部「二つのシステム」―熟考すべきときにそれを邪魔する直感について。
第2部「ヒューリスティクスとバイアス」―近道だと思って飛びついた解決法にどのような系統的エラーが発生するか。
第3部「自信過剰」―ハロー効果など私たちの直感がどれほど印象に左右されやすいか、感情が現実をどのように否定するか。―から構成されている。

プロスペクト理論の詳しい記述は下巻。最初に説明されている「二つのシステム」が、タイトルでもある「ファスト=速い思考」と「スロー=遅い思考」だ。瞬間的に閃いた思考が、熟考しなければいけないはずのシーンで出てきて、意思決定の邪魔をしたり、失敗の要因になったりする。その2つのシステムの働きを著者は事細かに比較検証してみせてくれる。結論に飛びついたり感情で物事を決定するときも同じだ。

プロスペクト理論について知りたくて読む読者が多かろうと思われるが、まず第1部の「二つのシステム」という大前提がわからないと全体がちんぷんかんぷんになってしまうので、行動経済学目当てであっても上巻から通して読まれることをおすすめする。経済学より読書に興味がある方にはもちろんおすすめだ。自分の直感だと考えてきたものがいかに周囲に操作されてきたものかということがよくわかり、愕然とするだろう。

著者は本書の目的について「認知心理学と社会心理学の新たな発展を踏まえて、脳の働きが今日どのように捉えられているかを紹介すること」としているが、ニュースに興味のある方ならあの政治家の当選もあの株の暴騰もこの本1冊で説明できてしまうことに驚かれるだろう。

ところでこの本は素晴らしいが、電子書籍より紙で読む方がいいというのが正直な感想だ。私がこの本を読んでいる間にBookLiveはバージョンアップしたようで、残念ながらユーザーフレンドリーとはいえない使い勝手になってしまい、総合評価が4なのはそのため。が、紙の書籍で読んでいれば5をつけたと思う。利用者の使いやすさ優先のバージョンアップを一刻も早く望むものだ。


システム1が速い思考、システム2が遅い思考を示す。ここでは、印象によって政治家などの実績を鑑みなくなる「ハロー効果」について解説

ノーベル賞を取っただけのことはある画期的というか衝撃的な発見。アナリストの勝率はコンピュータのアルゴリズムより低いそうです

たとえば採用面接の合否なども担当者が感情的に判断するだけではなくアルゴリズムも使用したほうがよいという