【ドラマ放送中】世間に隠れて暮らす、前科持ちの2人の女。さざ波のような事件と日常の交差

小説・エッセイ

更新日:2013/2/19

いつか陽のあたる場所で

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 新潮社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:乃南アサ 価格:658円

※最新の価格はストアでご確認ください。

乃南アサさんの作品はそれこそ、デビューしたての頃からよく読んでいます。彼女の作品にはいつも普通の日常がちょっとしたズレから非日常になってゆく様、普通も異常も紙一重というところが描かれていることが多く、共感度が高いから。この作品はドラマ化されNHKで放送中ということもあり、手にとってみました。装丁がタイトルを助長していて、手に取る前から期待感いっぱい。そして1ページ目からすんなりとその世界に入ってゆけます。

advertisement

タイトルから想像できる通り、主人公・小森谷芭子には20代の大半を刑務所で暮らしたという暗い影が。窃盗罪という、普段ならばあまり共感も呼ばない罪状で7年の刑期を終えた彼女の日常は、目立たないように、周囲の注意を惹かないように、地味に生きてゆくこと。祖母から受け継いだ家があるのがせめてもの救いで、家族からは勘当され、身寄りは「同じ釜の飯を食った」やはりムショ帰りの綾香だけ。綾香にも普通ではない過去があり世間が許すだけの刑期を終えてきたものの、常に罪悪感や疎外感から離れられない女2人。

綾香と芭子が子猫のように寄り添って、大事に大事に日々の平和を守ろうと生きてゆく姿が淡々と描き出されてゆきます。その描写の優しさと2人の憎めないキャラクターに、すっかり読者も「陽の当たらない」側の住人に。下町に済む2人の周りには、都会らしからぬ人情と濃い個性が集まっていて、静かで地味で秘密裏で何も起こってはならない日常に小さな事件が起こってゆく。そのさざ波の立つ様はさすがのアサ流。

これはドラマにしても面白いだろうなぁと読みながら絵が浮かんでくる小説です。久々にのんびりと小説らしき小説を読んだ感でいっぱい。女性にことにお薦めしたい作品です。


刑務所帰りということをひたすら隠して暮らす芭子と綾香

綾香には芭子より更に暗い過去が

唯一の休みを大事に合わせて家族のように過ごすふたり