私が私であることを脅かす、記憶をめぐる最恐ホラー短編集

小説・エッセイ

更新日:2012/3/7

緋い記憶

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 文藝春秋
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:eBookJapan
著者名:高橋克彦 価格:420円

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82年制作の映画「ブレードランナー」は、都市論や物語論などに多くの革新的イメージを与えたものだが、人間てのは記憶のことだというまったく新しい人間観も作り出してしまった。当時の人たちにとってこれは衝撃的だった。我々人間は、自分という確かな個を持っていて、個人として現実の中に生きているのだという考え方があらゆることの根底だったのに、そうではなく、なにを憶えているかが「私」にほかならないといわれてしまったのだ。もし間違った記憶をもたされたなら、その偽りこそが「私」なのだ。立っている地面が突然なくなったみたいなものだ。

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99年に「緋い記憶」で直木賞を取った高橋克彦は、こうした、人の存在を脅かす、記憶というものの恐ろしいメカニズムを薬籠中のものとして、かずかずのホラーを作り出してみせた。

子供のころ住んでいた街に、確かにあった廃屋のような家、そこで遊んだ少女、久しぶりに訪れた主人公が訪れてみるとそんな家ははじめからないといわれ…

ひなびた温泉宿に泊まる主人公は、同宿の女性と親しくなる。彼女には小さな子供がいて、自分の子供時代をなんなく思い出すが、次第に記憶は混乱してまるで時間がねじれていくような感覚が襲いかかってくる。

記憶はおうおうにして間違って刻み込まれている。それは思い出すにはつらすぎる本当の記憶を隠すためで、その真の記憶がよみがえるとき変形するのは世界のほうではなく自分という存在だ。そうしてその恐怖は私たち読み手がこの現実世界で知らず知らずのうちに自分をごまかしながら呼吸している毎日そのものだ。

高橋克彦の記憶をめぐる短編は、どれも本当にこわい。

もう目次からしてちょっと恐い

細部は不確かだが忘れられない記憶に主人公は悩まされている

記憶のでティールが次第に明らかになると、なぜか怯えも募ってくる

トラウマだったほどのあの思い出がまるでなかったことのように… (C)高橋克彦/文藝春秋