TENGAの方が気持ちいい!? 若者のセックス離れの実情

小説・エッセイ

更新日:2015/9/29

セックス嫌いな若者たち

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : KADOKAWA
ジャンル:教養・人文・歴史 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:北村邦夫 価格:668円

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日本人のセックスレスは世界最高(最低?)水準 ―— イギリスのコンドーム・メーカー、デュレックス社による2007年のデータによれば、日本人の「年間のセックス回数」は、20カ国を越える調査国の中で、なんと最下位なのだそうだ。年間48回という結果は、次に少ない香港(84回)やシンガポール、アメリカ(ともに85回)からも大きく引き離されている。

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『セックス嫌いな若者たち』の著者である1951年生まれの産婦人科医、北村邦夫は、「女性とセックスすることで頭がいっぱいだった自分自身の青春時代」という実体験から、日本のセックスレスを牽引している(であろう)若者の「セックス嫌い」という現状に疑問を投げかける。この本では、セックスに消極的な若者へのインタビューや独自のアンケート調査を元に、若者がなぜセックスが嫌いなのか、その理由があぶり出されていく。

若者の「セックス嫌い」の理由として挙げられているのは、多様なセックス代替物の浸透や、メールやインターネットの発達による男女間コミュニケーションの変化だ。男の子のニーズに応える様々な種類の風俗や、マスターベーションのための動画や道具があふれ、メールの多用でコミュニケーション能力が劣化し、若者たちは「一発勝負の本番」をさける傾向にある、というのが筆者の分析だ。

身近な女の子とのセックスよりも、そういった代替物を選んでしまうのは、それぞれの理由がある。インターネットを通して見たAVでのセックスに衝撃を受けたり、三次元の女の子の「ドロドロ」を見て幻滅したり、ベッドをともにした女の子の無神経なひとことでEDになったり…それぞれの経験はバラエティに富むのだが、とにかく幻滅と逃避が早いのである。結果、若者は二次元のアニメキャラクターを嫁と呼ぶアニメオタクや、結婚するまでセックスをしない純愛信奉者、女の子とセックスするよりも自分でマスターベーションする方が気持ちいいというTENGA愛用者などになっていく。

セックスそのものに関心がないのではない。ましてや、性欲自体が、時代とともに減退している訳でもない。「人とのセックス」に恐れや嫌悪感を抱き、それを避ける若者が増えているのである。

正直、筆者の医師よりは「若者」に近いからか、私には「セックス嫌い」な若者の気持ちが少し分かる。「セックス嫌い」は、自己防御でもあるからだ。生身の人間はどこまでいっても自分の思い通りにはならないので、時に思いがけない喜びをもたらしてくれることもあれば、時に傷つけられることもある。

しかし、バレンタインのチョコレートに対してと同じで、はじめから“俺、そういうの興味ないんだよ”と言ってそのフィールドから降り、セックスの代替物を自ら選択してしまえば、傷つくこともない。「プライドが高すぎるために、そのプライドをへし折られる可能性のあることを、極度に警戒」(本文より)することもなくなる。

この本に出てくる若者たちの語りを聞いていると、セックスへの嫌悪感はそもそも、異性や、人間そのものに向き合うことが苦手であることに端を発していることが分かってくる。こうなると、もう「セックス嫌い」だけの問題ではない。

筆者は、政府の少子化政策が、セックスに消極的になっている人たちを支援する政策になっていないことを指摘しつつ、「幼少期から男女間のコミュニケーション・スキルを磨いておくことが重要」とし、性行動を促すような学校での性教育の必要も主張している。セックス嫌いが男女間のコミュニケーションの問題であるとすれば、性教育だけでなく、教育や社会政策の観点からもなにか新しい対策を考えるときに来ているのかもしれない。とはいえ、かつて物議を醸し出した、東京都知事による「男女混合シェアハウスで少子化対策」というのは、あまりにも短絡過ぎるとは思うけれど。


本職はお医者さんというだけあって、医学的な知見からの考察もある。マスターベーションを頻繁に行ったほうが、新鮮でフレッシュな精子を提供できるので、妊孕率(妊娠する確立)も上がるそうだ

独自調査によれば、男性の労働時間が週49時間を越えるといっきにセックスレスの方に傾くという。『ゴルゴ13』の主人公みたいな男の人は特殊ケースと言っていっていいのかもしれない

女性においても、セックスに対する嫌悪感は、以前より増えている

男女の性反応の違い。これは勉強になる!