引きこもりの半生を描きました、では済まない大作!
公開日:2013/3/5
みなさん、さようなら
ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader | 発売元 : 幻冬舎 |
ジャンル:小説・エッセイ | 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy |
著者名:久保寺健彦 | 価格:743円 |
※最新の価格はストアでご確認ください。 |
団地から一歩も出られなくなった少年のお話。というと、『海の上のピアニスト』などが連想されたのですが、予想は大きく裏切られましたよ。いい意味で。
主人公、悟くんは団地の外の世界をまったく知らないわけではなく。その有限である世界の外へ出ることを拒絶しているわけでもないのです。とある事件のせいで、出ることがかなわない状態で半生を送ります。この物語はそんな悟くんの視点で団地の変わりゆく姿、昭和から平成へと移っていく時代というものを、鋭く切り取っているな、と思いました。
もうひとつのポイントが、次々と団地を去って行く同級生です。彼らの成長していく姿は、悟くんというフィルターを通すことで、まるで定点観測のようにみえてくるのです。
前半の人生に対してもがき苦しむ場面などは、重松清先生の『疾走』などを連想させます。けれど、そこまで重たくはないタッチで話は進むんです。だからこそ、油断して読み進めたかなとも思っています。終盤はしっかり泣けるようになっていますよ。なにも団地に引きこもっている少年の話なんていう、目新しさだけをウリにした一発芸ではなかった。
本作は「第1回パピルス新人賞」の受賞作品です。これまでもさんざん書いてきたことですが、公募で選ばれる作品に必要な要素はきちんと備わっていたということですね。ひとつが目新しさ。そして安定感。二律背反だと、これまた何度も書いていることですが、本作を読むと確かにとがった部分とリーダビリティは同居しうるということがわかっていただけるのではないかと思いますよ。
今年の1月に映画化もされた作品です。映像から入ってもいいですし、活字からでも歓迎です。やや社会的なことを書きつつも、読者を飽きさせない。最後まで引っ張る力がある小説です。
悟くんの時間は小学校で止まったままなのだ
中盤、こんな救いがあるからつい油断して読み進めてしまう…
ここでも終わりじゃない。悟くんはふたたび蘇る
時折、こんなしんみりとした場面もありで、読者を飽きさせない