各国の教科書が教えてくれる“その国のビジョン”と“おもしろ発見”

小説・エッセイ

公開日:2013/3/7

こんなに違う!世界の国語教科書

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : KADOKAWA
ジャンル:教養・人文・歴史 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:二宮皓 価格:668円

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最近、いまさらながらアメリカのテレビドラマ『LOST』にはまった。飛行機が墜落した島で起こる様々な不思議な出来事と人間模様を描くSFシリーズなのだが、このドラマを観ながら毎回「よくやるなあ」と感心してしまったのは、次々に出てくる登場人物が、みんな「多様性」に満ちているということだ。肌の色、髪の色、目の色、出身地、英語のアクセント、民族的ルーツ…ありとあらゆる点で、多様な人たちが登場してくる。“人種のるつぼ”と呼ばれるアメリカを体現しているかのようだ。

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この本を読んで、合点がいった。アメリカの教科書は、「特定の人種だけを扱っていないか、偏った価値観を植え付けていないか、差別を助長していないか?」という点を審査基準にしており、とにかく偏っていることを嫌う、というのだ。アメリカの教科書が伝える「アメリカ的価値観」とは、そのまま「多様性の受容」を意味している。

その国の子どもをどんな国民に育てたいのかという国のビジョンが、もっとも顕著に現れる本…それが、教科書である。

二宮皓監修の『こんなに違う! 世界の教科書』は、日本の教育研究者たちが、日本を含めた世界11カ国における小学校の国語教科書について、比較教育学の視点から解説した、興味深い本だ。実際に使用されている教科書の中身もたくさん掲載されており、その国の子どもたちが学んでいる物語や詩も読むことができる。

個人的に私が初めて知ることが多く、おもしろかったのは、ケニアの章だ(第10章)。ケニアと聞けばサファリ! と想像する人は少なくないと思うが、ケニアの初等教育について知っている人はどれくらいいるだろう? この本によれば、ケニアでは、レベルの高い小学校は制服や補習の経費がかかるために富裕層が集まり、小学校卒業時にある国家統一テストの結果でどの中学校に進学できるかが決まるなど、日本より学校の序列化が進む学歴社会なのだという。また、ケニアには多くの民族が共存しているため、教科書で特定の民族的英雄を取り上げて対立を招かないよう、日本の教科書によくでてくるような歴史上の有名人物の「偉人伝」はほとんどないのだそうだ。

ちなみに、この本が根ざしている比較教育学とは、「海外の教育と日本のそれを比較検討して日本の教育を深く理解し、改善する」ことや「教育とその背景を通じて相手の国を深く理解する」ことを目的としている。この本の中では上記で紹介したアメリカ、ケニアのほかにも、イギリス、フランス、ドイツ、フィンランド、ロシア、中国、韓国、タイの教科書が取り上げられており、各国の教科書の特色や教育制度の特徴を、日本の教育と比較しながら読んでみるのもおもしろいだろう。さらに、その国の子どもたちがどのような教科書で学んでいるのかを知ることで、その国民性や文化を理解する手助けになるかもしれない。

今、日本で起こっている様々な教育問題に興味のある人をはじめ、外国の人々や文化をもっと知りたい多くの人にもオススメの1冊だ。


教科書で扱われるテーマもさまざまだ。ドイツの教科書では、社会的問題となっている外国人労働者流入や失業の問題が取り上げられている

中国の「4代発明(火薬・羅針盤・製紙・活版印刷)」は日本の学校でも習ったことがあったが、実は、麻酔も中国で発明されていたらしい。知らなかった!

韓国の人の多くは「田中」という日本の名字を知っている。その訳は…この本を心して読んで欲しい

日本で小学校に通った人はみんな知っているであろう『ごんぎつね』。なんと、日本で出版されている5つの小学生国語教科書のすべてで掲載されている。人間と動物のすれちがいや報われない思いを表現した悲しい物語だと思って読んでいたが、このようにほとんどの子どもが教科書で同じ物語を共有しているというのは、世界的にも珍しいパターンのようだ