先行きの見えない日本の未来を探る知的な1冊

公開日:2013/3/12

その未来はどうなの?

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 集英社
ジャンル: 購入元:電子文庫パブリ
著者名:橋本治 価格:648円

※最新の価格はストアでご確認ください。

先行きの見えない時代に、インテリとか識者とかは死語になってしまった。聞こえてくるのは我田引水や牽強付会のだみ声ばかりだ。いや、いるのかもしれない、この時代の本質を見抜いて指針を示せる賢者というものだって。いるかもしれないがそういう人たちは、誰も自分の声に耳を貸さないとあきらめて、発言をやめ、ひっそりと時の流れの背後に身を潜めているのではないだろうか。


 

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けれど忘れてはいけない才人がひとりいる。やさしい言葉で状況を読み取り、進むべき道を示唆してくれるかけがえのないひとりが。橋本治である。

この本で橋本は9つの項目を挙げ、この先の日本の未来の行方を提示する。

9つの項目は、

「テレビの未来はどうなの?」
「ドラマの未来はどうなの?」
「出版の未来はどうなの?」
「シャッター商店街と結婚の未来はどうなの?」
「男の未来と女の未来はどうなの?」
「歴史の未来はどうなの?」
「TPP後の未来はどうなの?」
「経済の未来はどうなの?」
「民主主義の未来はどうなの?」

たとえばテレビについて。

地デジスタートとともにみんなテレビを買い換えたわけだけど、ブルーレイに録画しましょうという気運の高まりとは逆風に、テレビ見なくなっちゃった人が結構いると橋本はいうのだ。つまり、そこまでして録画する番組なんかどこにあるの、というのである。

もともと文化というか、娯楽というか、映画や演劇という芸能は、身繕いをただしてこちらから「出かけいく」ものだった。ところがテレビは「向こうからやってくる」ものだ。それも寝っ転がって眺めている人のだらしない見方にあわせてより一層だらしなくいい加減なものを送ってくる。もちろん視聴率を稼ぐためだ。テレビなんてだいたいそんなものだ、という橋本の意見に私は深く納得した。

テレビほんとにつまらない、と私も思う。どのチャンネルにもおなじ人が出て、おなじボケをかましている。せめてCMくらい表現にチャレンジするかと思えばほぼジャニーズの活躍場と化しているありさまでしょう。チャレンジが見たい。

橋本の考察はしかしここでとまらない。

そんな「勝手に向こうからやってくるだらしないもの」が日本の娯楽を大きく変えてしまったのだという。どう変えたか、批評というものを無にしてしまった。見るか見ないかをよってたかって視聴者が批評し、誰もが批評家になってしまったおかげで、ほんとうの批評家というものがいなくなってしまったのだ。この指摘も鋭いと思う。

そこでテレビの未来だ。橋本はもうこのまんまくだらないものでありつづけるだろうと断言する。なぜならテレビの命は視聴率なので、見る側が変わらない限りテレビも変わりようがないのだ。これを言い換えると、文化に触れる国民に橋本は絶望しているのである。

本書、後半に入るに従って、話題はお堅いというか、むずかしいというか、硬派な題材にのぼっていくのだが、この国の未来を憂える諸氏にはぜひご一読願いたいんである。


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