留学の成功と失敗を分ける鍵はどこにあるのか?

更新日:2015/9/29

留学で人生を棒に振る日本人―“英語コンプレックス”が生み出す悲劇

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 扶桑社
ジャンル:教養・人文・歴史 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:栄陽子 価格:540円

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何とも挑発的なタイトルだが、この本が伝えるメッセージは至ってシンプルだ。「英語学習目的で留学するな、自分の頭で留学する目的を考え、しっかり将来を設計して行動しろ」。

こんな簡単なことに見えるのに、「留学で人生を棒に振る」人が後を絶たず、この本が支持されているのは、日本人の留学に対する意識が低く、留学情報や知識が不足していることや、「国際化」「グローバル化」と言えば「英語」に直結してしまう未熟な思考、「英語幻想」とも言うべき英語への過度な期待が背後にあるのだろう。

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読者のなかには、漠然と留学に憧れをもつ人や国内の大学受験や就職試験に失敗してしまい、海外留学でセカンド・チャンスを狙う人、子どもがバイリンガルになることを夢見て、留学してほしいと願う親御さんもいるのではないだろうか。

そんなあなたに読んでもらいたいのは、この本に取り上げられているなんとも悲しいアメリカ留学の実態だ。留学エージェントに任せっきりで言われるがまま留学した先が、地元住民なら誰でも入れるコミュニティ・カレッジだった例や、日本人ばかりの英語学校でまったく英語力があがらなかった例、斡旋されたひどいホームステイ先…などなど。長い間、留学カウンセラーとして第一線で活躍してきた筆者は、だからこそ警鐘を鳴らす。「留学して人生を棒に振るな!」と。

成功する留学のための「鍵」は以下の2点に収斂される。まず、自分でしっかりと留学のプランを考え、情報を集めること(=悪徳留学エージェントに騙されるな!)。そして、「英語を勉強する」のではなく、「英語で勉強をする、英語で何かをする」ことに頭を切り替えること。筆者が言うように、「英語は自分の人生をステップアップさせるためのオールマイティーな切り札ではない」からだ。

注意したいのは、この本が発行されたのは2004年であり、この10年近くで日本の状況は大きく変化しているということである。現在日本政府は、日本人学生のいわゆる「内向き思考」や「海外留学離れ」を深刻に捉え、日本人学生の海外留学を応援するための手厚い奨学金やギャップイヤー導入、単位互換制度の整備など、様々な改善策を立てている。むしろ今は、留学を志す人にとっては、以前よりも良い条件で留学ができるチャンスなのだ。

また、前書きにあるように、「世界の中で、高校受験、大学受験、就職試験に至まで英語を課しているのはおそらく日本くらいじゃないでしょうか」というのは大きな間違いで、アジアでも欧州でも、進学や就職時に英語力が選考判断の一基準になるのは、もはや当たり前の時代である。特に隣国の韓国などでは、あらゆる試験や選考において、日本よりもよりシビアに英語能力の不足による足切りが行われている。むしろ、「国際語/グローバル言語」としての英語への注目度が圧倒的に低いのが日本だ。それも約1.2億人という世界第10位の人口を持ち、(中国に抜かされたとはいえ)世界第3位の経済大国だからこそ、日本はグローバルな言語を必要としない温室でいられる。

そんな温室の扉が、今こじ開けられようとしている。若者は「留学した若者は恵まれている分だけ社会に貢献し、お返しすべきだ」という筆者の考え方は、西洋におけるノブリス・オブリージュ(フランス語で「位高ければ徳高きを要す」の意)の概念と共通する。より多くの留学する若者が、今後の日本社会を牽引する時代はやってくるのだろうか。そのためには、留学に対する意識や姿勢そのものの変革が必要であることをこの本は教えてくれた。


アメリカの大学に留学しても、エリートにはなれない、と断言!

英語学校に1年間通っても、大学入学の基準であるTOEFL PBT 500点に達するのはその3分の1に過ぎないという。何とも衝撃的な数字だ

留学に限らず、よく言われていることではあるが、大事なのは、多角的な視野と自分の意見を持つことである、と筆者は言う

英語は確かに大事なひとつの「武器」ではある。でもそれひとつでは闘えないのだ