壊れていたのは原発だけではなかった…

小説・エッセイ

公開日:2013/3/28

メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 講談社
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:大鹿靖明 価格:977円

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福島の東電原発事故とその後の東電と脱原発勢力との攻防の記録。事故についてはほかにも何十点もの書籍が出版されており、東電がいかに無策無能か、監督すべき保安院がいかに機能していなかったかということは、もはや周知の事実である。だから原発関連のニュースを意識的に読んできた人にとっては本書の第1部を読むのは事実の確認作業にすぎない。

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が、おもしろくなるのは第2部以降である。金融業界の対応や、東電がいかにして電気事業法や総括原価方式に守られ殿様商売を続けてきたかについての記述が始まるのだ。ライブドアや村上ファンドについて書いてきた著者なのでこのあたりは大変よく取材されている。経産省にもかつては心ある役人がいたが、彼らが更迭され電力自由化が骨抜きにされていった過程なども書かれている。東電の勝俣元会長に至っては、生い立ちが父親の立志伝からさかのぼって描かれている(あれほどに人間離れした思いやりのなさについての秘密は明かされないのだが)。

本書は、著者があとがきにも書いているように、福島原発の炉心だけでなく、東電、経産省、原子力安全委員会や保安院、メインバンク、政治家がすべてメルトダウンしていたことを示す悲惨な記録である。

また、文庫版あとがきで述懐されているように、マスメディアも十分以上に劣化していた。たとえば東電社員の逆恨みによるリークだけを情報源とした安倍現首相の「官邸(当時)が海水の注入を停止させた」メルマガ記事にTBSと読売新聞が飛びつき、それが菅下ろしの重要なファクターとなるなど、真相とは異なる報道がしばしばあったことなども記録されている(しかし、この著者自身も前半の文章では当時の菅下ろし報道の影響を相当に受けているように思われる。

たとえば、菅元首相の描写に「興が乗った」「罵倒する」など強い言葉を選ぶ傾向がある。“叱責”を使用すべきところで“罵倒”を選ぶのは少々注意が足りないのではないだろうか。そのため文章のレーティングを下げた。恣意的なら論外だが、単語の使い方次第でナイーブな読者は操作されてしまう。原発立国を支える党の地滑り的勝利の片棒を担いだニュースメディアの方々には改めて注意されたい)。

地震対策にしっかり予算をかけた東北電力の女川原発と比較すれば、福島は明らかに人災である。東電がいかに無策であり、しかも加害者の自覚がないか。また財界・官界がどのように東電を後押ししてきたか。ほぼ実名で描かれているのでぜひ若い人に読んでいただき、今後の選挙や投資、貯蓄等の参考にしていただきたい。


官邸につめていた副社長が勝手に海水注入の中止を所長に指示する。下には威丈高な人間性が暴露されている。著者は容赦がない

原賠法はそもそも被災者と、税金と電気料金を払う国民のみが損をかぶる法律だった?中曽根はそもそも災害を考慮していなかった節がある

事故後も三千万円もの報酬を要求しようとする現実認識の貧しさ。というか銭ゲバぶり。まさか社風ではないと思いたいが