いま流行りのノマド論を一刀両断! 本物の「ノマドワーカー」になるには

公開日:2013/4/1

ノマドと社畜 〜ポスト3.11の働き方を真剣に考える

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 朝日出版
ジャンル:ビジネス・社会・経済 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:谷本真由美(@May_Roma) 価格:450円

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この本は、「ポスト3.11の働き方を真剣に考える」本である。2年前、大震災があったその次の日から、いつものようにスーツを着て会社に向かっていた(向かわざるをえなかった)人たちのことを覚えているだろうか? みなさんの中には、あの日駅に並んでいた人もいるかもしれない。あの震災を機に、様々なことが変わった。原発問題や今後日本に起こりうる大地震のことを考えて、今までのライフプランニングや働き方を改めて見直し始めた人も、決して少なくないのではないだろうかと思う。

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在イギリスの元国連職員で、Twitterやcakes(ケイクス)などのウェブメディアでも活発に意見を発信している筆者は、現在のノマドブームは、「デジタルな香りのする貧困ビジネス」と一刀両断する。ノマドワーカーとして生きていくには、高度なスキルや専門性を身につけなくてはならず、そうでない人は低賃金で働かざるを得ない。だからこそ、自分自身に高い「付加価値」を付け、営業や事務処理などもすべてこなし、対人能力を兼ね揃えた「スーパーワーカー」しかノマドにはなれない、というのだ。

たしかに、日本ではカフェなどを移動するノマドの仕事方法やライフスタイルばかりが注目を浴びていて、どんなスキルや資質を持っていればノマドとして生きていくことができるのかという点に関しては、あまりよく認知されていないように思える。日本の就職活動で重視されるのは、学生時代からインターン等で積んで来た経験や専門知識ではなく、その人自身の人柄や精神力、会社への忠誠心といったものが中心だ。日本という社会や所属する会社の中にいれば、自分の価値や評価、今やるべきことなどは、ある程度社会や会社が決めてくれる。しかし、何度も繰り返し書かれているように、ノマド的な働き方は、ただ好きなときに好きな場所で仕事のできる自由な仕事というのではなく、高いスキルや専門知識を持ち、成果物の質が第一であるため、「自分にしかできないこと」を常に意識して知識やノウハウを磨いていなければできないのだ、と筆者は警告する。

また、本書にはタイトルに含まれた「社畜」に関する考察はほとんどないが、少なくとも会社に勤めるということは、半ば強制的に社会や人との関係を保つことでもある。たとえノマドとして成功したとしても、ずっとつきまとうのは「孤独」だ。読み進めていくほど、一見自由で快適そうに見える「ノマド」として生きていくのがどれだけ大変なことなのかを、まざまざと見せつけられる。

しかし、また大きな災害が起きて、今の仕事ができなくなってしまったら? 会社が倒産したり様々な事情で働き続けることが不可能になったりしてしまったら、自分や自分の家族が生きていくために、どんな働き方をしていくことができるのだろう? このような命題は、ノマドになりたいと思わない人も含め、多くの人が抱えている問いなのではないか。その意味で、この本は、自分の人生における働き方を見直し、これからの自分が何かできるかを考えるきっかけになってくれるかもしれない。


イギリスのような契約社会では、高スキルを持ったノマドワーカーが専門の範囲外や契約外のことをすることはないという

筆者の住むイギリスでのノマドとしての働き方や参考になる本の紹介も

文章も平易で読みやすいので、通勤時間などにさくさく読めるだろう

ノマドという名の「自己啓発商法」にはひっかかるな! と警鐘を鳴らします