「文章巧者」佐藤正午のリアリティ溢れる連作短編集

小説・エッセイ

公開日:2013/4/6

カップルズ

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 小学館
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:佐藤正午 価格:615円

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『永遠の1/2』や『ジャンプ』、『リボルバー』など、“ちょっと微妙な男女の間”を描かせたら右に出る者は居ない、とされる佐藤正午の短編集で1999年の作品。

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街中で囁かれる他愛のない“噂話”を、同じ街に住む小説家が拾って行くスタイル。簡潔に言えばそれだけのお話で、派手な要素はほとんど存在しない。下手をすれば、最終的に何がどうなったのかもハッキリとは解らない。ただ、どういうワケか読み飛ばすことができない、ちょっと不思議なオーラを醸し出す作品。

倦怠期を迎えた夫婦、酒・バクチ・オンナが原因で夜逃げした男、かつてのNo.1ホステスなど、ここで語られる「噂」の主人公たちは誰もがパッとしない。トピックとしても本当にどうでも良いレベルなのだが、これが作者の手にかかると妙にリアルでミステリアスな寓話に変貌してしまう。

現実であればそれぞれの噂は本当に取るに足らないモノで、自分であればまず間違いなく聞き流す。しかし、この作品の文章を読んでいると、なぜか艶めいた都市伝説風の話題を盗み聞きしている気分になってくる。このあたりの“読ませる”テクニックは、やはりさすがとしか言いようがない。

前クールにNHKで放映された『書店員ミチルの身の上話』は、おそらくこの短編の発展型。こちらの語り手は最初から最後まで語り部としてありがちな単なる“小説家”であるところに若干の寂しさを感じてしまうのだが、独特のリアリティを生み出すにはこのキャスティング手法がきっと最適な手法。読後、思わず「巧い!」と唸ってしまったほど。

時代設定の所為もあるが、情景描写にちょっとしたノスタルジーを感じられる。思った以上に後からジワジワ来るタイプの作品なので、その手の愛好家はぜひご一読を。


表紙は水色基調のシンプルなデザイン

目次ページ、各章のタイトルはどれも意味深で惹きが強い

通常のページ構成はシンプルなデザイン、読みやすく美しい

詳細に設定できる画面輝度調整機能、外光の明るさにあわせて最適な位置がすぐに掴める

再読時に画面構成を変更すると印象がガラリと変わるから不思議、この作品は縦・横どちらでも合う