ホラー映画の趣向を取り込んだシリアル殺人鬼ミステリー

小説・エッセイ

公開日:2013/5/2

ホラー映画ベスト10殺人事件

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 光文社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BookLive!
著者名:友成純一 価格:508円

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ホラー映画の真骨頂は嘆美につきると私は勝手に考えている。この世の果てほども美しいものと組んずほぐれつフィルムをまわしていくのが本当のホラー映画だというわけだ。

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その喫水線で選ぶと私のホラー映画ベスト3はこうなる。

1.『サスペリア』 ダリオ・アルジェント監督 77年公開
2.『ファンタズム』 ドン・コスカレリ監督 79年公開
3.『ヴィデオドローム』 デビッド・クローネンヴァーグ監督 83年公開

どの3つもストーリー的にはハチャメチャだが、作り手の抱く鮮血や幻想や変形する身体への美学が強烈なショックを与えずにおかないんである。

もちろんホラー映画のおもしろさについてもっと別の基準を持っているファンも多くいる。たとえば本書の語り手である映画評論家の庄内良輔が、スプラッターもの、つまり血がドバドバ飛び散る手の作品が好みなのであるように。

庄内はうだつの上がらない評論家として映画雑誌に安い原稿料の記事を書いて暮らしているのだが、ある日災厄が訪れる。彼をなじった助監督が凄惨な殺され方で発見されるのだ。次々と起きる殺人事件は、すべて彼のあげたホラー映画ベスト10になぞらえるようにした見立て殺人なのだった。当然彼には濃い嫌疑がかけられ警察にマークされることになる。

ちなみに彼の考えたベスト10はこうだ。

1.『悪魔のいけにえ』
2.『スキャナーズ』
3.『2000人の狂人』
4.『悪魔のはらわた』
5.『ハロウィン』
6.『地獄のモーテル』
7.『イレイザーヘッド』
8.『バスケットケース』
9.『ゾンビ』
10.『サンゲリア』

なかなかゲテモノだらけのセレクトだけれど、私ならこの中のどこかに日本未公開とはいえ、あの『ロード・オブ・ザ・リング』を撮ったピーター・ジャクソンの初期作『ブレインデッド』を入れるんだけどなあ。

閑話休題。犠牲者のひとり目はハンマーで頭を殴られ、2人目は口に突っ込まれた爆薬で頭を吹っ飛ばされと、むごたらしい殺人シーンがこれでもかと描き出されていくのは、この小説そのものがミステリーでありながら、同時に一種のスプラッターホラーでもあろうとしているからなのだ。

スプラッターの快感とはどこにあるのだろうか。哲学だの物理学だのを編み出し、あるいは良識や秩序をわきまえたりして暮らしている人間という生き物が、結局はただの肉の塊でしかないという事実を、飛び散る血や内臓の映像の中に確認する。そのことで市民社会へのノンを感じ取る。もっと広くいえば退屈な日常を吹き飛ばしてカオスのただ中に自由を感じる。まあそういったことではないかな。

ホラー映画の好きなお方には、映画業界の裏事情もほのめかされているこの小説、そこそこ楽しめると思うのだが。


映画業界の厳しい内幕も随所におりまれる

庄内はホラー好きというよりほとんどフリークだ
(C)友成純一/光文社