小さな熱から始まる家族という病

小説・エッセイ

公開日:2013/5/3

TVガイド文庫 向田邦子シナリオ集(9)「家族熱」上巻

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : ニュース企画
ジャンル:趣味・実用・カルチャー 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:向田邦子 価格:525円

※最新の価格はストアでご確認ください。

昭和53年にTBSのドラマとして放送されたこの作品。電子書籍で登場したのは2012年のこと。まずは、こうした古い作品の電子書籍化に拍手を送りたいです。向田邦子の熱烈なファンでないかぎり、この1冊を探して本屋を歩き回るということもしないだろうし、どこにいてもどんな古い本でも稀少にも関係なくさっくりと手に入ってしまうこの簡易さは、作品の重みにあまりに反比例していますが、便利で、ありがたいことです。

advertisement

じっくりと人間を読みたい、という欲求にかられ選んだ久々の向田作品。選択は間違っていませんでした。読後、どっと心の中のいろんな凝りがほぐされたような。素晴らしいのひとことにつきる1編です。

黒沼謙造は50代の大手建設会社部長。2人の子供を置いて出て行った元妻のあと、黒沼家に20歳で後妻に入ったのが朋子。それから13年間彼女は朝に昼に、自分の子供ではない杉男と龍二の面倒を見、姑を看取り、舅の世話も一気に引き受けた。そんな彼女の心のひだを中心に、話は展開してゆきます。

継母に慣れず、出て行った実母を慕う龍二。朋子を一番に理解し、ときに淡い思いを抱く杉尾。昇進をかけた橋の入札に人生最大の危ない橋を渡る建造。建造の父の重光は、妻を亡くしたのち、新しい恋に目覚めようとしている。

そして出て行った建造の元妻、片桐恒子の過去と、黒沼家から抜けられない現在。それぞれの登場人物が持つ性格が鮮やかに会話の中で具体的になってゆき、のっけのページから読者を黒沼家の一員になってしまい、物語に引き込まれてゆきます。

小さな嘘、小さな見栄、小さな秘密。小さな反抗。そんなことがすべて重なってゆき、幸せだったはずの家族に大きなうねりが近づいてくる。そんなうねりの中でも底辺に大文字の「愛」を感じずにはいられない作品。文句なしにおすすめです。


幸せだった朋子の日常も元妻の「追突」で激変してゆく

前妻の痕跡を地道に消してきた朋子

老人の恋にも打算が