女の悲しい性が交差する、やるせない物語

小説・エッセイ

公開日:2013/5/14

ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 講談社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:辻村深月 価格:802円

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山梨出身の主人公神宮司みずほは30代のライター。大学を東京で終え、雑誌のライターとなった彼女は地元の友人たちの中でも特異な存在。結婚して子供を作り、幸せな家庭を営むことが仲間内の多くの一番の願い。合コンを繰り返し、仕事もそこそこに専業主婦になるのが当たり前の世界で、地元の友人が思いがけなく殺人事件の犯人となってしまったことから、物語が始まります。

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殺人事件を起こしたのは、友人誰もが驚きを隠せなかったほど、手芸好きで家族仲がよかった望月チエミ。そして被害者はその母親だった…。そのニュースから、みずほの関係者へのインタビュー行脚が始まります。

自分も友人として関係している故、インタビューは友人間の人間関係も絡み、その中から狭い地域社会での習慣や時に生きづらさが浮き彫りに。前半この状況描写に相当の枚数を費やしていますが、母親殺しの犯人チエミの環境を固めてゆくには必要かも。

ライターらしく聞き込めば聞き込むほど、彼女の過去もチエミと密接に関係してきて、事件の要素はますます複雑に。チエミとみずほの共通の女友達たち。そしてそれぞれの母。女同志のときに楽しくも、ときに姑息で、幼稚で、嫉妬と競争に満ちた世界は少々読んでいてつらいです。

なぜ、チエミのようなどこにでもいるような普通の子が母親を殺すに至ったか。その執拗な状況説明の後だからこそ、腑に落ちる理由。そして、チエミの逃走生活も、終焉を迎えるときが。タイトルの『ゼロ、ナナ、ゼロ、ハチ』、その意味がようやくわかる仕掛けが巧妙。決して、痛切でも明るくもない1冊ですが、女の性の切なさが心に染みます。


母と娘の確執から始まる事件

主人公みずほの過去にも影が

チエミの失踪を探るほど疑問が溢れ出る