「がん治療」に関する衝撃的な提言に耳を傾けよ!
公開日:2013/5/18
私の父は胃がんで亡くなった。発見したときは末期で、余命1ヶ月と宣告されたが、そのとおりちょうど1ヶ月の朝大量吐血をし、そのまますうっと消えていった。
消えていったというにふさわしい穏やかな亡くなり方だったのは、もしかしたら手術も抗がん剤の投与も避けたからではないか、と思わせるほど入院中に痛みも吐き気も激しい倦怠感も訴えないままの、静かな死だった。
胃がんでもこういう死に方があるんだとほとんど感動したのを覚えている。
本書は、そのタイトル通り、力を尽くしてがんと闘う医療を避けよ、という衝撃的な内容の1冊である。紙の本で発表されたとき、世間を大いに騒がせ、とりわけ医学界に喧々囂々の論争を巻き起こしたのは忘れられない。
提言しているのは、大きくいえば次の4つの点。
「手術はほとんど役に立たない」
「抗がん剤治療に意味があるのは全体の一割」
「がん検診は百害あって一利なし」
「がんは本物のがんと、がんもどきに分かれる」
たとえば胃がんの場合、本書中ではニュースキャスターの山川千秋さんのケースを具体例としてあげていますが、手術のあとの合併症で症状は悪化し、加えてがんを取り切れていない原因により、亡くなったと述べます。そうしてこのような事態はがん手術にたびたび起こることなのだと指摘するのである。
あるいは抗がん剤。もちろん、抗がん剤が効力を発揮することもごくごくまれなケースとして存在する。しかし多くの場合、患者を非常に苦しめるし、延命もほぼ期待できない、そう著者はいう。胃がんのみならず、乳がんや大腸がんなど、他の症例についても説得力のある説明をほどこしていく。
もちろん、ほっておいてもがんは治るなどといっているわけではない。ただ、なくてもいい苦痛を味わうことなく、ひとらしい死に方を迎えるためのアドバイスをしてくれるのだ。
少なくとも抗がん剤に関しては私もこの理屈に与してもいいような気がする。父以外の親族でがんによって命を落とした場合をみても、あれほど理不尽に体力を奪う治療はないだろうと思えるからだ。その上、手術と抗がん剤治療が、むしろがんの再発を招くという著者の言葉を聞くならば。
治療法を選ぶのはあなただ。だからこそ、一読に値する書物なのではないか。
がんは今後も治らないだろうなどと恐ろしいことをいう
にせ者のがんという新しい概念も
論は、治療のみ成らず、医師の批判にまで及ぶ
(C)近藤誠/文藝春秋