血みどろ活劇におけるプリザーブドフラワー
公開日:2013/5/27
場所は多摩川のほとりにあるプリザーブドフラワーショップ。プリザーブドフラワーとは、生花の如き状態で保存された花、人間でいえば蝋人形、いやエバーミングかな。ともかく、花を薬に漬けて美しいさかりの状態で、生きてるような死んでるような低空飛行をつづけさせる技術らしい。
時は春。ショップのオーナーの息子・烏谷青磁の恋人というべきか、角貝ササミが菜の花を食べて死んだ。生き返らせるために4つのパーツを揃えて、合羽橋の製菓材料屋のビル5階、ミルクチョコレートフロアに運び込まないとならない。365日以内に。
4つのパーツとは、目、歯、耳、臍。ただの目とか歯ではない。白い花模様の眼球とか、天使のラッパの歯、なのである。
なんだそれは。
烏谷青磁に頭があがらずパーツ集めに協力させられるオーナーの甥・水垣鉄四に負けないくらい、読者である私も頭をかかえる。なぜ、菜の花を食べて死ぬのだ。なぜ、4つのパーツで人が蘇る。なぜ、仕上げはミルクチョコレートフロアなのか。
ともかく、角貝ササミの遺体を氷漬けに、春、夏、秋、冬、まる1年かけてのパーツ探しの旅、いや、人様の体をほじくってパーツを取り出すわけだから、殺人の旅が始まる。
それからはスプラッター。そこらじゅう血まみれな描写が多く、ホラーが苦手な方は要注意、といいたいところだけど、4つのパーツというのが、妙にきれいなのだ。たとえば「歯」。人の口をこじあけて奥歯をほじくるなどといえば、グロテスクで口臭もきつそうな場面だが、天使のラッパの歯、と書かれると、なんとも朗らかな印象になる。
流血の大惨事、のようでいて、赤くてきれい。プリザーブドフラワーが、花の生気を削いで色彩と形態だけを残すように、この作品でギトギトに切られる人体やパーツと呼ばれる人体部位は、鮮血がスカッと赤く流れ、清涼感さえ漂う。タイトルは『□』。この正方形に秘密があるではないか。血みどろで不条理な世界がきちんと「□」という箱のなかに収まってみえるためではないか。
帯には「作者初のホラーサスペンス」とあるけど、ホラーかなぁ。恐ろしさより美しさが際立つ。私は「スプラッターポエム」とかいわれても、そうかなるほど「詩」であるか、と信じただろう。