40年前のミステリーが突然ブレイク!

小説・エッセイ

更新日:2013/6/26

模倣の殺意

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 東京創元社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:中町信 価格:604円

※最新の価格はストアでご確認ください。

 本書の原型である『新人賞殺人事件』が上梓されたのは1973年。実に40年も前だ。そこから大幅な改稿を重ねて創元推理文庫入りしたのは2004年である。それが昨年末、書店チェーンが「埋もれた名作」のフェアの一冊として本書を紹介したのがきっかけでブレイク、話題が話題を呼んで全国で部数を伸ばした。

advertisement

7月7日、ある作家が服毒死した。警察は自殺として処理したが、その作家と親しかった女性編集者・中田秋子は不審を抱いた。生前、彼のもとを訪れていた女性が鍵を握っていると考えた秋子は独自に調査を始める。一方、作家の死を雑誌の記事にすべく調査していたライターの津久見伸助は、調査の途中でとある盗作事件に直面。これが作家の死に関係しているのではと、関係者を追及するが──。

仕掛けと企みに満ちた作品なのでこれ以上の内容の紹介は控えるが、魅力のひとつとして、まず、トリックが凝っていることが挙げられる。特にこれが40年前に出されていたことを思えば驚かざるを得ない。故鮎川哲也氏は本書を読み、著者の書き間違いではないかと思った箇所が実は罠だった、と驚きを語っている。それがどこなのか探してみるのも面白いだろう。今なら似たようなトリックを幾つか挙げられるミステリマニアも多いだろうが、本書こそがその嚆矢だったと言っていいのではないか。もしかしたらこのトリックは、40年前には早過ぎたのかもしれない。

もうひとつの魅力は、1970年代(最初の執筆は60年代)の風俗が愉しめるという点にある。金銭価値が違うのはもちろんのこと、ケータイがない時代ならではのアリバイ考があったり、女性の言葉遣いがかなり違っていたりする。現代ならいろいろな方面に配慮して筆が鈍るようなモチーフも、はっきり書いている。小道具だけではない、そういう時代の価値観や考え方といったものが透けて見えるのも、古い作品を読む面白さだ。

特筆すべきは、最初に出版されたときの後書きと、文庫化されたときの後書きに加え、濱中利信氏の文庫解説も収録されていること。許諾の関係からか、文庫が電子化される際には解説は収録されないケースが殆どだったのに、これは嬉しい。特に本書は初出から何度もタイトルや版元を変えて出されており、その度に改稿されているのだが、それがどのような改稿でなぜ必要だったかという点まで紹介してくれているのだ。先ほど「このトリックは早過ぎた」と書いたが、それが時代の変遷とともに読者に受け入れられてきたことを知る資料としても価値がある。電子書籍収録を決めてくれた関係者に拍手。


濱中利信氏の解説は資料としても読む価値あり! ただしネタバレがあるので先に読んじゃダメ