海の内部を見ること。それは未知への想像力を見ることである

公開日:2011/9/30

深海生物学への招待

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : NHK出版
ジャンル:趣味・実用・カルチャー 購入元:eBookJapan
著者名:長沼毅 価格:432円

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海は、海面から最深部までが生物圏となっている。
一方、陸上では地表300メートルまでが生物圏である。海洋は陸上の生物圏体積の約300倍なのである。
そのうち深海の部分のみでも約200倍以上もある。人間の生物圏である海洋、特に深海を我々はどれほど知っているのだろうか?

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理学博士であり、他書に「生命の星・エウロパ」などを執筆。極地、辺境等の過酷環境に生存する生物の探索調査で著名な長沼毅の本である。本書で深海生物の生態を紹介し、生命の可能性を考察したいというのが著者の考えである。

地球生体系における植物連鎖は植物による光合成、つまり太陽光を利用した生物生産に依存する。では太陽光が届かない深海底の生態系はどうなっているのか? この疑問に対し、著者が研究対象に選んだものがチューブワームである。

チューブワームは熱水噴出孔チムニーやその周辺に寄生する細長い管状の生物である。チューブワームは、外筒は硬いが、中の生物本体は軟らかく、体の大半がソーセージ状であり、口も消化管も肛門もない。体内に共生バクテリアが化学合成を行い、宿主であるチューブワームの栄養供給を行なっているのである。そのような独特な生物が海洋に存在する。

他にも海の掃除機ナマコ、獰猛な肉食貝類バイ貝、獰猛な肉食生物ズワイガニ、色々な浮遊物、懸濁物をナイスキャッチして餌を得るナイスキャッチャーであるヤギという深海サンゴやオトヒメノハナガサというヒドロ虫類、三脚で立つ魚など、様々な生物が紹介されている。これらの生物を知ることは、深海での生命の多様性、連続性、可能性を知ることだと著者は考える。

深海へ生物の進出を許さないのは圧力でも水温でも暗黒でもない。生物体を作る原材料の不足。生物活動に必要な代謝エネルギーの不足である。飢餓こそ生物の恐れるものなのである。このような考察もこの本からの知識である。

読者も生命の可能性について想像してみてはいかがだろうか?


チューブワームのコロニー

深海探査船「しんかい2000」

深海探査船「しんかい6500」

世界最深部の指標。海底プレートが設置されている

深海の多様な住人

獰猛なエゾイバラガニ

海底のナイスキャッチャー

ガラパゴス沖のチューブワームコロニー

チューブワームの構造

シロウリガイのコロニー (C)長沼 毅/NHK出版