ただ勉強しているだけでは深みのある人間にはなれない。ではどう学ぶのか?

公開日:2013/7/10

大学でいかに学ぶか

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 講談社
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:増田四郎 価格:648円

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学生時代は「勉強する」って、どういうことなのか、実はあまり意識しないでそれに従事していたりしますよね。

この本は、日本の歴史学者であり一橋大学名誉教授でもある増田四郎先生が、「大学で学ぶこと」について記した書籍です。しかし、本書で取り上げられていることは、つい最近自分自身も社会人大学院生時代に遭遇したことがらでもあったりして、40年以上も前に書かれた本とは思えない「今」感があり、驚きました。

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まず、増田先生は大学で学問をする、勉強するということは、これまでの義務教育とは違う「主体性が大切である」ことを説かれます。やらされ感満載の義務教育とは異なる、能動的なスタンス。丸暗記ではなく、講義の中で得た知見に触発され、そこを立脚点に自らの考えを構築していくことが大切なのだと。確かに知識をインプットしただけで持論がなければ、ディスカッションにも参加できないですよね。

そして、考える力を養うためには「教授が展開する講義が果たして一貫した理論をもっているか否か、納得できるものであるかを、常に問い正しながら聴講する必要がある」と続けます。学問をする際に批判的な目をもつこと、論理性を重視することもまた、重要であります。

さらに、自分の力量や性格に合った専門性を定めること。これについては、先生は性急に決めてしまわず、大学に入ったら小説や詩を読んだり、哲学の本に頭を突っ込むなど「あっちこっちを歩き回ってみる。それは一種の精神的遍歴」であり、必要なことなのだと述べておられます。私自身も、修論の研究テーマを決める際には一足飛びに決めずに、一見回り道のように思えるプロセスを経て、思考が熟成されていった記憶があります。

一方で、先生は「勉強はひとりでするべからず」と、ゼミで学ぶことの重要性にも触れています。勉強を進めてよい実りを手にするには、人との接触が非常に大切である。それは尊敬する教師や先輩との交流を通じて学べる何かであり、読書では得られない。人から聞いて感じたものが一生の支えとなって残ることもある、大学時代の友こそ真の親友になり得るのだ、とも。自分のことに置き換えて振り返れば、たとえば論文執筆は、恐ろしく孤独な作業でありました。私の場合はゴールに向かう過程で先生はもちろん、先輩やクラスメート、後輩等、周囲の人たちからさまざまにソーシャル・サポートを受け、それでやっとたどりつくことができたのだと感謝しています。

先生は最終章で大学が抱える問題点について書いていますが、それは現在の大学が抱える問題点とそれほど遠くはなく、そのことにもまた、はっとさせられます。

地道な研鑽の積み重ねの先に得られる、新たな知見や新機軸。培われる思考の論理性や、行動する人間への自己形成。それらを手に入れるために必要なこと=大学でいかに学ぶかが、真摯に綴られた良書であると、感じ入りました。


高名な学者でありながら、全体的にやわらかく親しみやすい語り口調、謙虚な姿勢に打たれます

簡単に、手軽に答えを探さず、精神的にさまようことこそが道である、とのこと

勉強や研究は、苦しいからこそ楽しい。なにか禅の境地に通じるものを感じます
(C)増田四郎/講談社