これは「青春する男兄弟」のスタンダードである

小説・エッセイ

公開日:2013/7/10

戸村飯店 青春100連発

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 文藝春秋
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:瀬尾まいこ 価格:508円

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私は、もっと「笑える」ものを期待してこの作品に手を出したのだけれど、なるほど、青い春って本当に青いのね。「恥ずかしく」なってしまいましたわたくし。だって19歳。主人公たちもそのくらい。将来に対する煩悶やら、なんやらを、こうもちゃんと描かれると、ごめんなさい、私も、本当に青い人間ですって謝って歩きたくなる。

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一方で、ものすごい「まぶしさ」も感じる。それはうまいこと言葉にできない。恥ずかしくて、まぶしくて。これが、かの「青春」というやつなんだ。迷える子羊たちよ、間違いなく、これは君のバイブルさ。そして大人になってしまったみなさん、この1冊で「あの懐かしい日々」追体験しようじゃありませんか。きっと楽しいですよ。

大阪の庶民派中華料理店「戸村飯店」には2人の息子がいますが、その性格といったらまるで逆。弟のコウスケは夏目漱石の「坊ちゃん」を思わせる短気で明朗快活な、ザ・大阪男児。兄のヘイスケはなんでも器用にできるちょっとセンシティブな色男であります。ふたりが直面するのは「進路」について。だれも言葉には出さないけれど、昔からひしひしと迫るのは、どちらが店を継ぐのか、という問題。子供のころから家を出たがっていたヘイスケは、小説家になりたい、だとかいう適当な嘘をつき、高校卒業を機にさっさと家を出てしまいます。そんな兄を傍目に、勝手に家を継ぐことを決意するコウスケ。東京での生活や恋愛、受験を経て、大きく成長する2人。あれこれ考えながらも青春を錯綜する姿は、もやもやながらもなぜか爽快です。

この作品、まずキャラクターが抜群に良いです。兄弟2人とも魅力的だから、つい追いたくなる。次は何を考えてくれるんだろう、何を行動してくれるんだろうと期待が膨らむし、その期待以上にかっこよく決めてくれます。さらに良いのは周囲の人々。まるで人情映画の個性派脇役のようで、味があります。関西弁も軽快で良いですね!私の中ではこの作品が「青春する男兄弟」のスタンダードになりました。いいですよ、「青春する男兄弟」。ちょっくら胸がときめきました。恥ずかしくて、まぶしくて、かっこいい、そんな『戸村飯店青春100連発』をぜひご賞味あれ。とってもおいしい物語です。


出だしから心を掴む面白さ

好きな女の子が全校生徒にバレバレな弟…。秘密にしてたのに!可愛いです

でた、父の名言。思わずマーカー
(C)瀬尾まいこ/文藝春秋