【直木賞候補作―(原田マハ)】 芸術への愛が込められた、読む美術館

小説・エッセイ

更新日:2013/7/16

ジヴェルニーの食卓

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 集英社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:原田マハ 価格:1,131円

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マティス、ドガ、セザンヌ、モネ──美術史にきらめく星たち。彼らの作品のモチーフに、その背後にあったかもしれないドラマを、身近にいた者や縁続きの者の目を通して紡ぎ出す短編集である。一言で言うなら、豊饒。まるで静かな美術館を、ゆっくりと時間をかけて巡るような、そんな贅沢な作品集だ。

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著者の原田マハはキュレーターでもある。その美術に対する知識、審美眼、そして愛情が余すところなく注ぎ込まれた『楽園のカンヴァス』は山本周五郎賞を受賞し、直木賞候補にもなった。そして本作は、おおいなる虚構のドラマだった『楽園のカンヴァス』から一転、画家たちのあったかもしれない一面を静かに、しかし情熱的に描いたものになっている。手法は違えど、その両方に共通するのは「この画家の絵が見たくなる」ということだ。それほどまでに、その美術作品へのリスペクトが物語に詰まっている。

そんな読者の思いを汲んでくれたか、本書は各編のモチーフになった作品の写真が掲載されているのが嬉しい。1作目「美しい墓」はマティスのパトロンの小間使いだったマリアが、マティスの元に花を届ける場面から始まる。マティスに気に入られ、そのまま彼の邸で働くことになったマリアが出会ったのは──。読み終わって画面をタップした瞬間、そこに現れた鮮やかなマティスの絵には驚かされた。作中に出て来たのはこれか、と改めて見入ってしまった。その間は、時間の流れが止まる。ドラマを読ませてもらった直後にその絵を見ることで物語が何倍にも膨らむ。本に掲載された写真ですらそうなのだ、実物を見たらどれほど感動することだろう。

同様に「エトワール」では、ドガと同じ時期に画家を目指したメアリー・カサットの目から、「タンギー爺さん」はセザンヌが通った画材店の娘の書簡で、「ジヴェルニーの食卓」はモネの義理の娘の視点で、それぞれの作品の背景を綴っている。自信と自尊心に満ちた若き画家、円熟の極みに達した壮年の画家、そして死が近づいてなお絵筆をとる画家。さまざまな画家たちの息づかいが、筆遣いが伝わり、そしてそれぞれの作品を写真で見ることができる。

なんとも贅沢な1冊。時間のあるとき、お気に入りのソファに静かな音楽、飲み物を用意してゆっくりと味わうように読みたい。そんな作品集だ。


各編の最後に掲載された絵や彫刻がインパクト大