ありえないキャラクターのありえなさを楽しむ破格ミステリー

小説・エッセイ

更新日:2012/4/16

刑事 雪平夏見 殺してもいい命

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 河出書房新社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:秦建日子 価格:463円

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秦健日子による雪平夏見シリーズの3冊目。「アンフェア」シリーズといってもいいだろう。
河原で発見された男の死体には、赤いリボンで括られた殺人請負業の広告チラシが口に押し込まれていた。その被害者の名は佐藤和夫。雪平刑事の元夫にして愛娘の父にあたる人だった。

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「フクロウ」と名乗る殺人請負人は、やがて毛ほどの証拠も残さないまま警察をあざ笑うかのように第二、第三の犯行を侵し、マスメディアの白熱の中、雪平は不眠不休の捜査をむなしく続ける。ふとした糸口から隘路を見いだした雪平は、あまりにも大胆な罠を犯人に向かって仕掛けることにするのだった。

このシリーズの魅力は、ヒロインである雪平刑事のユニークなキャラクターによるところが大きい。生活習慣はきわめてだらしなく、自宅マンションの床はゴミですっかり埋まっている。料理なんかもちろん作れない。そうしたことから離婚され愛する9歳の娘・美央と別れて暮らさねばならない苦悩に耐え、苦しみを紛らすかのごとく仕事に熱心で、かつ能力もあり捜査一課で三年連続検挙率ナンバーワンを誇る一方、法規通りとはいえ過去に未成年を2名射殺した経歴を持つ。

ありえないキャラクターのありえなさを楽しむのが著者のアンフェア・シリーズだ。だからふつうのミステリーとは味わい方が別なのである。読んでいてグッとくるとこは、ある意味臭さとギリギリの決めフレーズを登場人物が吐いて、優しさ厳しさ甘さキツさ、などのキャラクターが過剰にあぶり出される箇所にあるはずだ。少しくらいエピソードに矛盾があったって、お話につじつまの合わないところがあったって、それはとりあえず置いといて、雪平夏見の格好いい生き方のあとをついていこうではないか。


物語は不気味なプロローグからはじまる 幼い子供を道連れにした無理心中らしい

発見された死体の口には、リボンの巻かれた書類が突っ込まれていた

その書類は、なんと殺人請負業の宣伝チラシだった