秋からアニメ開始！ 体験してしまったホンモノの野球の感動が少年をエースへと導く

幼稚園から高校で施行されている新学習指導要領で重視されているのは「これからの教育」。つまり、「ゆとり」でも「詰め込み」でもなく、社会において必要となる「生きる力」を身につけること。そのために、教育現場では、児童・生徒みずからが“体験すること”に非常に注力しています。体験することで、ホンモノの感動を覚え、新しい価値観を見出したり学習に対する意欲を高めたりします。

これは、勉強の場だけでなく、部活動でも同じです。たとえば、野球のおもしろさ。高い次元の野球を知ることで、野球が持つ新しい価値やおもしろさに気づき、自分もその場で活躍できれば、と願う。そうして、眠っていた才能を開花させ、ピッチャーとしてエースの座をたぐり寄せていく少年が、本作の主人公・沢村栄純です。

野球の名作マンガは数あれど、史上もっともリアルに野球の苦節が描かれている作品として絶大な支持を集める『ダイヤのA』。待望のテレビアニメが秋からスタートということで、手頃なデジタル版で再読しました。描き込み量が多く、読み応えに定評がある本作ですが、デジタル版ならピンチイン・ピンチアウトで拡大・縮小が思いのまま。背景奥のディテールや小さく描かれている人物の表情などを拡大し、作品を隅々まで味わい尽くすことができます。

さて、本作の魅力は、前述のとおりリアルに描かれていること。たとえば、旧来の野球マンガでは、弱小チームが生まれ変わり強豪校を打ち破っていくというのが王道でしたが、本作の主人公・沢村は、弱小チームの仲間と強豪校への野球留学を天秤にかけ、強豪校を選択します。情に厚い主人公は、仲間への思いに後ろ髪を引かれながらも、新天地で高いレベルの野球を目の当たりにさせられることで、「自分もここで」という挑戦したい気持ちを抑えられなくなるのです。王道でありながら、斬新。リアルです。

また、沢村はたぐいまれな才能を持っていますが、課題も多く、順風満帆とはいきません。当然、魔球なんて都合のよいものは存在しない本作。彼の前には苦難の数々が立ちはだかりますが、それでも、体験してしまった“ホンモノの野球”とその感動が、彼の原動力であり続けます。

第53回（平成19年度）小学館漫画賞少年向け部門、第34回（平成22年度）講談社漫画賞少年部門受賞作品。エンターテイメントかつ骨太なストイック野球マンガで、アツい夏を乗り切ってみては。

TVアニメ「ダイヤのA」スペシャルサイト