海洋SFの大傑作。打ちひしがれた現代人に送る、人生の再起動譚!
公開日:2013/7/27
「人間味がない。」
ハードSFと聞くと、どうしてもそんなイメージが付きまとうのではないでしょうか。超越的なテクノロジー、機械工学、理論から、世界情勢や食糧事情といった、未来の生活様式まで。これらが複雑に絡み合って、重厚な世界観を作っているのが“ハード”たる所以であります。見たこともない機械に囲まれて淡々と宇宙へ漕ぎだす飛行士…。そんな感じですね。無論、それも醍醐味のひとつでもありますが、SFマニア達を唸らせるために、しばしば設定偏重になりがちであり、登場人物の描写が薄味になったりするのも事実。探偵小説で言うところの、トリック偏重主義というヤツです。
人間味がなくて小難しい。なんともビギナーには敷居の高いジャンル…。
いや、ちょっと待った! そういう方にこそ、読んで頂きたいのが本作であります。
舞台は、テクノロジーにより管理された大海の鯨牧場。食糧供給を激的に改善する手段として、鯨やプランクトンの養殖が利用されている近未来です。主人公は深刻な宇宙症を患い、飛ぶことが出来なくなった元宇宙飛行士のウォルター・フランクリン。新たな仕事として始めたのは、カウボーイならぬホエールボーイ。エサを求めて海を渡る群れの手綱を握ります。訓練生時代に始まり、監視員、そして局長と、彼が鯨や海と共に生きていく様子が描かれます。恐怖症と闘いながら、自分と向き合って再起していくフランクリンを応援せずにはいられません!
所々で小難しいゾーンに突入するにはするのですが、フランクリンの心が追えていれば、ざっくり読み飛ばすのもアリです。丁寧に人間の心を通して語られているおかげで、違和感なく入っていけるのです。
主人公が屈強なマッチョではなく、挫折した中年というのも大きなポイントです。緻密なハードSF作品でありながら、きっちりしっかり人間が主役の本作。ビギナーにもマニアにも、自信を持ってオススメ! ミスターSFは伊達じゃない!
ここから男の第2の生涯がはじまります
150フィートのイカ!! 45メートル!
クラーケンのつぎはリヴァイアサン
(C)アーサー・C・クラーク、高橋泰邦/早川書房