撮影まで10年間! ダイオウイカを追い続けたその舞台裏とは?

小説・エッセイ

更新日:2013/7/29

ドキュメント 深海の超巨大イカを追え!

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 光文社
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:NHKスペシャル深海プロジェクト取材班 価格:875円

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幻の生物を撮影する―—この非現実的とも野心的ともいえそうな願望を叶えてしまったのが、『ドキュメント 深海の超巨大イカを追え!』に登場する人々だ。この本は、今年1月に放送され、ドキュメンタリー番組としては脅威の視聴率16.8%を記録したNHKスペシャル『世界初撮影! 超深海の巨大イカ』の舞台裏を描くノンフィクション。

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ダイオウイカは全長10メートルにも及ぶ巨大生物だが、深海に生息するため生きて動いている姿を撮影されたことがなかったという。欧米ではダイオウイカは、船を襲ったりする妖怪のようなミステリアスな伝説の生き物だったそうだが、日本ではほとんどといっていいほど知られていなかった。

1997年、そのダイオウイカを食べるマッコウクジラの群れの写真が小笠原で撮られ、自然科学雑誌に発表された。ここから、のちにNHK深海プロジェクトのメインプロデューサーとなる岩崎と、カメラマン河野は「世界初の映像を撮り、番組にする」ことの可能性を考え始める。

その後、2002年、番組ディレクターとなる小山が異動してくる。元々小山は東大大学院の海洋研究所の出身で、ダイオウイカについて研究を続けてきた国立科学博物館の窪寺とも知己であった。人材は揃ったものの、企画が通らなかったり、研究費が下りなかったり、肝心のイカが何年も姿を現さなかったりして番組制作は何度も暗礁に乗り上げる。プロデューサーの岩崎など、冗談まじりとはいえ「今度撮れなかったら家を売るんだろう」などと揶揄されてきたそうだ。科学的ドキュメントばかりでなく、その幾多の危機をどのように乗り越えてきたのかも本書は追って行く。「プロジェクトX」もかくやという克明さだ。

私も1月に放映された番組を見たが、それまで巨大イカの映像がどれほど貴重なものなのか、まったく知らなかった。番組を見てさえ、どれほどの苦労があったのかもわかっていなかった。むしろ番組では冒険物語のように比較的スムーズに撮影が進行しているようにさえ見えた。その、素人にはわからなかった、10年間かけて23分の動画を撮ったことの意味が、本書でわかる。記述は時系列で理解しやすく、やたらとキャラの立った博士たちのエピソードや予算の苦労話があるかと思えば、イカの生態や深海潜水艇や水中カメラのスペックなどについての記述があり、文系の読者にも理系の読者にも楽しめる内容だ。

美しい図版も多数。中高生の夏休みの図書としても大推薦だが、仕事で行き詰まっている人、行き詰まったことがある人の清涼剤になるのは確実だ。


メカすら可愛らしく「タンタン」を読んでいるような楽しさが

“怪物クラーケン”をイメージしにくければ『ベルセルク』航海編でガッツが闘っていた巨大多足生物を思い出してみよう

思いがけないところにこのような図版があり、心和まされます

何万ものダイオウイカが生息するとは、自然科学のスケールの巨大さを思い知らされる
(C)NHKスペシャル深海プロジェクト取材班、坂元志歩/光文社