どうってことない毎日に、ちょっぴり旅のスパイスを

小説・エッセイ

公開日:2013/8/25

古都トコトコ記・断食への道

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : KADOKAWA / 角川書店
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BookLive!
著者名:銀色夏生 価格:540円

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本作は、実に気軽です。作者のスタンスが気軽、ゆえ、読者のスタンスも気軽。たまたま家に遊びに来てた、お母さんの友達の長話を聞いてるみたいな本。なんとなく懐かしい。なんなら私も~って、思うんです。なんなら私も旅してみよっかな、なんなら私も断食してみよっかな。好奇心はあるのだけど、なかなか行動にうつせない、そんなときにおすすめの1冊です。

  

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作詞家でありエッセイストの銀色夏生さん。おそらく53歳。古都を訪れた際のエッセイと、断食道場で過ごした1週間の記録、それからご近所さんとのお散歩日記が収録されています。

本作の魅力は「素直」であること。夏生さんは、大仏様にあまり感動を抱くことができないらしい。なんとか大仏様の良さを知れたらな、と今回の旅を決意されたそうなのだけれど、それはとても共感できるものがあります。私も大仏様の何が良いんだかさっぱり分からないたちです。でもなんだか不謹慎な気がして、感じ入ってるふりをしょっちゅうしてました。ほおーう、みたいなこと言ったりして。

夏生さんは、はっきりと、こう言います。「大仏の頭の髪の毛の丸 その丸はさっき見た鹿のフンに似ている」こんなものですよね、現代人。でも「素直」だからこそありありと伝わってくる古都の魅力やお寺の雰囲気があります。見たもの感じたものをそのまま書くから、一緒に旅をしているような気になれる。「どっか行きたいけど時間ないなあ。」そんなあなたの通勤電車やちょっとしたスキマ時間に、妄想プチ旅行するにはもってこいなのです。

もうひとつ紹介させていただくのは、第2章の断食の宿のお話。みなさん、断食の宿って知っていますか? 豊かな自然の中で体の中をデトックスするために宿のプログラムに沿って断食をする、というものです。施設によってはマッサージなどの施術やジム、ヨガ教室なんかがついていたりします。なかなか得体のしれない断食の宿ですが、ここでは夏生さんが過ごした1週間について詳細に語られています。また、宿での人間関係についても濃厚に描かれています。友達でもない、同僚でもない方々と過ごす1週間は、なんだか奇妙で面白い。未知の世界に踏み込んだ気がして、ちょっぴりワクワクしてしまいました。

どうってことない毎日に、ちょっと刺激を与える旅の本。退屈な毎日に窮屈していたら、さらっと読んでみるのもいいかもしれない。気軽にふらっと。近所にお散歩に行くようなつもりで、ぜひ読んでいただきたいものです。


写真がたっぷりで楽しい

味のあるイラストが可愛らしい

素直でおかしみがあります
(C)銀色夏生/角川文庫