伊勢神宮の謎に迫る、歴史随想なミステリーツアー

公開日:2013/8/31

伊勢神宮の暗号 (講談社+α文庫)

ハード : iPhone/iPad/Android 発売元 : 講談社
ジャンル:教養・人文・歴史 購入元:Kindleストア
著者名:関裕二 価格:※ストアでご確認ください

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伊勢神宮好きな方の中には「開運スポットとして参拝するのが好きな人」と、「ミステリアスな謎について考えるのが好きな人」がいらっしゃるように思います。ちなみに筆者は前者であり、これまで参拝には行っても、伊勢神宮がなぜ伊勢にあるのか、深く考えたことなどありませんでした。しかしこの本は「伊勢神宮は誰が、いつ、なぜ必要として造営されたのか」「見ても触れても語ってもいけない、心の御柱の謎」から「説明不可能な“二重構造”が存在する、その理由とは!?」など、伊勢の秘密のベールに迫ってゆきます。

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そもそも、天皇家の祖先である天照大神(あまてらすおおみかみ)が祀られる伊勢神宮が、なぜ朝廷の本拠地である大和ではなく、都から遠く離れた伊勢である必要があったのか。しかも、伊勢神宮が整えられた7世紀から明治維新に至るまで、伊勢神宮を直接参拝した天皇はわずか2人だけ。天皇は伊勢に近寄っていないという異常事態。そこにはきっと、なにかしらの理由が潜んでいるに違いないというぬぐえぬ疑惑。

そんな、疑い出せばきりがない伊勢の謎を解くため、著者は古代の聖地の位置の意味付けから考察し、伊勢神宮がヤマトタケルと強い因縁でつながっていたことにたどりつきます。しかしそこで「伊勢神宮が伊勢の東を向いている理由」や、それがなぜ「ヤマトとつながっているのか」などの新たな疑問に直面し、それらを検証しながら進んでゆきます。なるほど、これまでパワースポットの象徴的に捉えていた伊勢神宮に、なにやら壮大なミステリーが潜んでいることが徐々にわかり、難解な推理小説を読むかのごとく、こちらも眉間にシワを寄せつつ読み進めます。

途中から神話の世界に突入するので、予備知識がない方は躊躇せずに、巻末の神統譜資料などを参照しましょう。天照大神と素戔嗚尊(すさのおのみこと)の確執から、最終的に天照大神は天石窟(あまのいわや)に隠れるあたりまではなんとかついてゆけますが、その先の『日本書紀』を読み返す過去の検証のような作業のあたりが、難解です。著者は、ひとつひとつのいきさつを丁寧に追いかけ、謎解きのヒントを探しながら進みます。『日本書紀』だけでなく『古事記』や『万葉集』などさまざまな資料からも引用して推察し、素直に従えない説や矛盾を感じる論の場合は、そのように書いて立ち戻ったり。さながらタイムトリッパーのように時空を越え自在に展開する、著者のフリーダムな歴史随想についていくのが精一杯な思いで、なんとか読了しました。

日本の神話は思いのほかややこしくて複雑で、その関係性の把握に時間がかかります。しかし今年は20年に一度の遷宮の年。もし伊勢参りを予定されている方は、この本で伊勢にまつわる謎解きツアーを楽しんでから、かの地に赴くのもよいかもしれません。


筆者は天照大神が伊勢に祀られた理由を、宗教や政治、歴史学者の論説など、さまざまな観点から検証してゆきます

伊勢神宮の秘密を解き明かすためには、ヤマト建国のいきさつにも迫ります。仮説の中で有力なのは、纒向遺跡(まきむくいせき)の出現こそヤマト建国を意味していたのではないか、という説

ヤマトタケルとは、ヤマト建国の悲劇をひとりの人物に託して述べたものであり、複数の人物像が重なっていたのでは? という著者の仮説