じわじわとファンを獲得中! 良作本格SFミステリー
公開日:2013/9/6
朝日新聞の書評で「先の読めない緊迫感あふれる展開で読者を引っぱりながら、さまざまな葛藤を抱える主人公の内面をも掘り下げる。急流なのに深みのある川みたいなもので、うっかりはまると危険。」と評された本格SFミステリー漫画、『僕だけがいない街』。
どんなものかと軽い気持ちで読み始めた私ですが、1巻を読み終わった後気づくと2巻も買っていました。3巻発売が待ち遠しくてたまりません。本作品の軸として話の随所に断片的に散らばる18年前の誘拐事件の謎と、毎回毎回「続きは!?」と思わず叫びたくなるような話の引きで、ついつい一気読みしてしまうこと請け合いです。
話の舞台は2006年の東京。主人公の藤沼悟(ふじぬま さとる)は売れない漫画家で、ピザ屋のバイトでどうにか食いつなぐという燻る日々を送っています。彼には人に言えない特殊な力があり、それは「事件が身近に迫ると、主人公は何故かその数分前をタイムループする」というものでした。彼が「再上映(リバイバル)」と呼ぶループ現象から抜け出すには、なんでもない日常にしか見えない周囲から未来の事件の種を見つけて取り除かなくてはなりません。これが絵で表現されているページが、間違い探しのようで中々面白い。初見時、ついつい私も悟と同じく目を皿のようにしてページを隅から隅まで見つめ、「違和感のある部分はどこだ?」と探したのですが上手く見つからず…無念でした(笑)
さて、話の筋は悟の再上映能力と、彼が18年前に体験し、今ではほとんど覚えていないという誘拐事件が密接に絡み合って進んでいきます。そしてその誘拐事件が発端となり、18年後の現在でも新たな事件が起きてしまい…と、話が進むごとに謎が増え、一見バラバラに見える出来事が大きな一つの流れを作って怒涛の勢いで話を進めていきます。1巻は話の説明やプロローグといったところ。タイトルの意味は2巻で出てきますので、できれば1、2巻の同時購入で一気に読むことをおすすめしたい作品です。
デビュー以来鳴かず飛ばずの悟。原因は漫画のキャラクターを上手く彫り込めないこと。その原因の根幹には18年前の誘拐事件が深く横たわっていて…
「再上映」は悪いことが起きる直前を何度も繰り返すこと。こんななんでもない日常のどこに、未来の悲劇の種が埋まっているのか
「無関係に思えるバラバラな出来事も 実際には全て連鎖の中の出来事なのだと 後に知る事になる」という悟の独白通り、断片的な話は後半で一気に1つの奔流となって襲ってきます