編集部が満場一致で大賞受賞。語り部は懸命に生きた人々の軌跡を物語る

公開日:2013/9/8

煌夜祭 (C★NOVELSファンタジア)

ハード : iPhone/iPad/Android 発売元 : 中央公論新社
ジャンル:コミック 購入元:Kindleストア
著者名:多崎礼 価格:※ストアでご確認ください

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ハイファンタジーが好きならこれは外せません。「第2回C★NOVELS大賞」で審査員達から全会一致で大賞を受賞した作品であり、私が学生時代に大変感動した作品のひとつです。諸国を渡り各地の伝承や物語を伝え歩くある2人の語り部が、冬至の夜、廃墟の前に陣取り焚き火の前で夜通し己の知る伝承物語を交互に語り明かす、という冒頭が素晴らしい。これからどんな物語が幕開けするのだろうかと、これだけでワクワクしてしまいます。

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世界の舞台は、「死海」という毒海に浮かぶ18個の浮遊島。十八諸島と呼ばれるその島々には、冬至に人を食う魔物という化物がひっそりと息づいています。彼らは世が乱れる時に島主の血筋に生まれ、驚くべき生命力を持ち、ある魔物は首だけになっても死ねないというほぼ不死といって良い存在です。魔物は何故人を食らうのか、何のために生まれるのか、そしてどうしたら死ねるのか。その謎をゆっくりと解いていくのが、冒頭の2人の語り部です。

話の構造は語り部が語る物語が1章ごとに区切られており、連作短編の形を作っています。けれど話を読み進めていくごとに、新しい話が前の話との意外な繋りを見せたり、また先の話で男女の恋愛話だと思っていた物語が一転、贖罪の物語となったりと、一見バラバラな話が互いに深く結びついていることに気づいていくことになります。そして断片だったはずの物語が綺麗にひとつの流れに収束していったときの、最後の最後にくるネタばらしの時には、「ああなるほど」と爽快感すら覚えてしまいます。読みかえしたくなってしまうこと間違いなし! 話の全体像を頭に入れて改めて読み直すと、本当に最初から伏線をはっていることに気づかされ、ここでもまた1本取られたような気持ちになってしまいます。

一時期流行った大人向けの絵本、その読後感と似たような感覚が味わえます。また多崎さんはデビューをするまで17年間の雌伏期間があり、このあとがきには夢を追う人にはぜひ一読してほしい作者の言葉が載っています。物語よし、あとがきよし、表紙よし、三方よし。ひとりでも多くの方に是非とも手にとって欲しい1冊です


既に廃墟となったある島主の屋敷の前で、2人の語り部が出会い始まる煌夜祭。2人が出会ったのは果たしてただの偶然か…?

トーテンコフと名乗った語り部が物語るは「カワセミ」という名の語り部の話。彼は魔物が出るという冬至の日に野宿の危機にさらされていて大ピンチ。ここから彼はどうするのか

カワセミが出会ったのはひとりの美しい青年。彼には実はとんでもない秘密があって…