ネットとの付き合い方を根本から考えさせられる良書
公開日:2013/10/9
著者、ジェフ・ジャーヴィスはジャーナリスト兼大学教授だが、いまでは「インターネットのグル(導師)」と言われるほどネット社会にコミットしている人で、日本でもほかに『グーグル的思考』が紹介されている。「インターネットはグーテンベルグの印刷機に匹敵する発明だ」というのが持論だ。
本書『パブリック 開かれたネットの価値を最大化せよ』では、インターネットにより情報をシェアすることで、さらに新しい価値が生まれると提唱している。つまり、情報をより「パブリック(公共)」なものにして行こうという主張だ。実際、著者の言う通り、行政や企業の運営では情報はオープンになっていることが望ましい。顧客の希望を取り入れれば商品開発はよりスムースになるし、確実に売れるものが出来上がるだろう。東電の原発事故のように、情報を秘匿しようとするあまり、技術の進歩を滞らせ重大な事故を引き起こしたうえ必要な助けを断るようなことも避けられるに違いない。
だが、著者はさらに個人にも情報のシェアを提唱する。なんと、カードでの購買履歴を公開することの例もあげている。カード番号を泥棒に教えろと言っているのではなく、それをすることで、人気商品と適切な価格が一目瞭然になるということなのだが…。著者自身が、自分の前立腺がんの病歴を公開し、手術後おむつをしたことまでブログに書いている。それも、前立腺がんについての情報がより集まりやすくなるためということだが、情報公開への主張の強さは筋金入りなのだ。
しかし、プライベートとパブリックの境界は社会によっても個人によってもまちまちだ。すでに個々人が自分のどの部分を公開し、どの部分を公開しないか、意識的に選択して行かなくてはならない時代となった。本書は米国では2011年に発売されているが、日本でもSNSへのアホ投稿でバイトを首になったなどという話はもはやありふれているし、犯罪容疑者のLINEが公開されたりもしている。ある意味、著者の主張とは逆にプライバシーをどう守るべきか考えさせられる本でもある。
解説は小林弘人氏。本編は言及される分野があまりにも広く、電子書籍ならでは注釈が直接ウェブにリンクしていたりするのでネットサーフィンしているような集中の分散も起こり得る。解説から読まれるとより内容を理解しやすいだろう。
「飲んだら書くな」――ネット上のプライベートとパブリックはもはや逆転している。以前は友人との話はプライバシーで、公にしたいことは改めて発表する必要があったが、現在ネットは基本的にオープンで、プライバシーを守るためにひと手間かけなくてはならない
本書こそ電子書籍で読む必要がある。紙で読んだあと気になったサイトをまどろっこしく検索せずともすぐにリンクできるのだから。しかし、その分読書スピードは遅くなるが
現実にアラブでは長年の独裁体制が崩壊した国もある。また内戦的な混乱状態に陥ってしまった国もあるが、だからこそ政治家に丸投げするのではなく個人がネットの裏も表も見て、ある程度のリテラシーを確立しておくべきだ