小説の断片が街を埋め尽くし、夢と現実の境界が曖昧になっていく…

小説・エッセイ

公開日:2013/10/11

Pの刺激 - Punk is UnknowN Kicks -

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ジャンル:小説・エッセイ 購入元:Kindleストア
著者名:ヘリベマルヲ 価格:※ストアでご確認ください

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カルト教団による集団自殺事件の生き残りである主人公が、薬漬けにされた後遺症によって身につけた能力を活かし、さまざまな依頼を受け探偵のような仕事をしていくうちに、大きな事件に巻き込まれていくと、そこには……というストーリーの小説です。

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主人公が捜索の依頼を受けたのは、家出少女。彼女は14才で文壇デビューを果たしたものの、処女作以降スランプに陥り、騒がれたせいで学校でも浮いた存在になってしまい、やがて中退してしまったという経歴の持ち主。本人視点で父親と母親の話が語られますが、ストーリー的には祖父の存在が非常に大きかったりします。

その家出少女が受賞したのが「茶川賞(芥川ではない)」と、フィクションによくある言葉遊びで、思わずニヤリとさせられました。「人気絶頂のロシア人少女デュオ」や「徳島産IME」など、現実に存在する人やモノを具体名を挙げずに表現しているところが面白い。こういったギミックがあちこちに散りばめられています。

家出少女はあっさり見つかるのですが、一緒にいた編集者から、新しい依頼を受けます。街のいたるところに「PCz」と呼ばれる小説の断片がばら撒かれており、ネットでも熱狂的な愛好家によるコミュニティができて、断片をどうつなぎ合わせるかの推測が流行している状態になっていました。その作家と、オリジナル原稿を探しだして欲しいというのが依頼内容です。

聞き込み捜査に付いてきた少女は、眠りにつくと悪夢に苦しめられている様子を見せます。少女を救おうと主人公が能力を使う場面から、ストーリーが大きく動き出し始めます。私は映画『インセプション』を思い出したのですが、著者によると筒井康隆氏の『パプリカ』がモチーフになっているそうです。両作を知っている方は、ネタバレごめんなさい。ただ、この場面はまだ作品の3分の1程度。この先のストーリー展開がぶっ飛んでいて、一気に読んでしまいました。

情景描写が生々しく、読み終わったあとは、夢と現実の境界が曖昧になったような気分を味わいました。パンチの効いた作品です。読み返すと、新しい発見がありそう。


プロローグは、集団自殺を図るカルト教団の施設が炎に包まれていた記憶から

家出少女を探して欲しいという依頼を受け、「例の力」を使わずに済むよう願う主人公

家出少女は、若くして文壇デビューして、その処女作以降書けなくなってしまった小説家

街中にばら撒かれた小説の断片「PCz」の原稿を探して欲しいという依頼を受ける

悪夢に苦しむ少女の寝顔をみて、主人公は能力の行使を決意する