血みどろ残酷、救いのない、読後感最悪のシェイクスピア劇

小説・エッセイ

公開日:2013/10/20

タイタス・アンドロニカス

ハード : PC 発売元 : 新潮社
ジャンル:教養・人文・歴史 購入元:電子文庫パブリ
著者名:シェイクスピア 価格:378円

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シェイクスピア劇は面白うござんす。登場人物があんなにおしゃべりでなければ。「ただいま」というだけに30行、「ぶちぎれた」というためだけに40行、とっととせい夜になるぞといいたくなるくらい彼ら彼女らは喋りまくるのである。もとの文章は詩のスタイルで、韻を踏んだりしゃれを挟んだり、言葉の響き美しいたとえなんかでできあがっているから、「語る」ことが劇のストーリーと同じくらい楽しいのだろうと思う。

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けどそれは翻訳するときにほとんど失われる。だもんだから、「べらんめえ、尻っぱしょりで走りやがれ、こんちくしょう」と江戸っ子なら半畳投げたくなるのも無理はないんである。

無理はないのだが、そこを我慢してもなお魅力的な作品のあるのもまた事実なのである。

数奇な天命にあやつられるピカレスクロマンの「マクベス」、魔術とラブストーリーの支配する夢幻劇「テンペスト」、行き過ぎた善意と悪意が描き出す愚かにも崇高な悲劇「リア王」といった具合だ。

が、シェイクスピア劇のなかでもあまり重要視されない「タイタス・アンドロニカス」こそは、なぁんの我慢しなくとも、ムチャクチャに素晴らしいエンタテインメントなんである。

なにしろ、登場人物の大半が、むごたらしいやり方で殺されてしまうとくる。もう復讐と血と怨念のスプラッターホラー以外の何物でもないのだ。その上、シェイクスピア劇にいつでもあらわれる「正義」ってやつがここにはない。誰もが愚かでバカで思い上がって悪辣で他人への想像力を持たず、阿鼻叫喚の地獄図だ。読後感最悪である。

救いのなさときたら救われないほどなのである。

物語はゴート族と反目し合っていた古代ローマ帝国の時代。将軍タイタス・アンドロニカスと息子ルーシャスローマに凱旋する。タイタスは捕虜としたゴート族の女王タモラの懇願も聞き入れず彼女の長子を生贄として殺す。当然タモラはタイタス一家に深い恨みを心中に抱く。

一方、ローマ皇帝の跡継ぎをめぐって、先帝の息子サターナイナスとバシェナイスの兄弟は争っていたが、護民官から皇帝に推挙されたタイタスはこれを断りかわりにサターナイナスをその椅子に着けた。サターナイナスはその礼にタイタスの愛娘ラヴィニアを皇后とするが、ほんとはゴート族の女王タモラに参っていた。でもってらヴィアの方は、サターナイナスの弟バシェイナスと密かに婚約していたのである。この婚約を指示する息子達に怒ったタイタスは、見せしめに末子ミューシャスを殺す。

いよいよもつれて参りました。

このあと、狩りの場面ではネタバレになるから名前は書かないけど、強姦されて舌切られて手首切られて殺される娘とか、息子の肉を知らないまま食べさせられる女とか、終幕までにあれよあれよと13人が殺されることになる。

読み応え存分ね。救いのない物語や残酷血みどろのお好きな向きにはかなり好かれる1曲であると確信します。


しゃべり倒しています

タイタス君のお帰りです

1人目、殺されました