お遍路をしながら深い懊悩を確かめ、解消をはかる青年の明け暮れ

公開日:2013/10/26

アルキヘンロズカン 〈上〉

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android 発売元 : 双葉社
ジャンル:コミック 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:しまたけひと 価格:540円

※最新の価格はストアでご確認ください。

「アルキヘンロズカン」は、たぶん「歩き遍路図鑑」のことで、四国88ヵ所を歩いてめぐるお遍路の道程を図鑑のようにして描き出すという意味だろう。「ズカン」が「頭寒足熱」のことで、シャバの暮らしに倦んだ頭を清い空気で冷やしながら、それでも足は熱く逸って次を目指す、ってことだったら面白いが、まあこういうのを穿ちすぎというのだ。

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「歩き遍路」という言葉を恥ずかしながら初めて知った。遍路というのは歩きめぐるという意味だから、「歩き歩き」という意味になってしまうのはまずくないのか。それとも、「走り遍路」というのがいるのだろうか。朝起きるといきなり駆け出す。いま3週目だと訳の分からない威張りかたをするやつがいる。いや、うがちすぎでした。

本論です。

主人公はおそらく作者を投影させた青年で、日常的に彼をさいなむ煩悶をお遍路という営為のなかで昇華し、あるいはそれを悟ると呼んでもいいのだろうか、なにがしかの解決を求めて、苦しい旅路を営々と続けながら、ああでもないこうでもないと自問自答を繰り返す明け暮れである。彼の煩悶とは、ロリ系の漫画家である自分の仕事は編集者からも読者からもそれほど相手にされず、当然貧乏な日々を送ることになり、いったい自分はなにをやっているのかとの鬱屈も湧いてこざるをえず、それでも漫画を描くのが好きだとなっては、おのれの存在すらどう考えていいか分からない。分からない、分からない。といった体のものだ。

もちろん道中に、さまざまな人との出会い、別れ、再会が展開し、胸に去来する思いが多々あるのだが、リアルだったのは、もう最後の番所となった彼の心に「いよいよ終わりだ」という感慨が浮かぶものの、ほとんどなにも感じていない自分を発見するところだ。ここはちょっとグッときた。

四国お遍路さんの風俗も描いてある。逃亡中の手配犯がお遍路に紛れてさまよっていることがあるとか、観光客たちに喜捨をねだって歩く「職業遍路」がいるだの、ふーんそうかぁという気にさせる。

ちょっと暗いけど、暗い話は人を安らかにするので、私は楽しく読んだのだった。


なぜ歩くのか

彼の悩みは深かった

どんな長い旅もいつか必ず終わる