アンパンマンの生みの親・やなせたかしに学ぶ生涯現役を貫くということ

公開日:2013/10/27

天命つきるその日まで―アンパンマン生みの親の老い案内

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : KADOKAWA
ジャンル:教養・人文・歴史 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:やなせたかし 価格:864円

※最新の価格はストアでご確認ください。

さて、困ったことになったな…。『天命尽きるその日まで』を読んで、最初に浮かんだのはそんな言葉でした。本作は、やなせたかしさんの書き下ろし(一部は書きためていたものを収録)エッセイ集なのです。

advertisement

エッセイというくらいだから、そこには一貫した主張なり人生観のようなものがあるはず!…なのですが、まことに自由奔放な作品集でして。一編一編のエッセイはどれも読みやすく、ちゃんとまとまっている。それなのに、読者を設定したテーマに誘導しようという意図も見えないし、自分語りに酔っているというわけでもない。なんともとらえどころのない、まるで仙人と問答をしているような気分になるわけです。

サブタイトルにこそ『老いの案内』とありますが、冒頭でご自身が明かしているように、これは依頼した出版社の企画がそういうものだった、というだけのこと。そんな依頼はどこ吹く風で、「人生訓など書けるわけがない」「ぼく自身がまだ迷いに迷っている」とはっきり書いていらっしゃる。そして人生も後半になってから、アンパンマンのヒットで成功したこと。同時に、何度も大病を患っていつ死んでもおかしくなかったこと。それでもなんとか90歳を超えて現役で描き続けていることなどを、そのときどきの気持ちを振り返りつつ、一編だいたい1000字ちょっとのエッセイで何度も語りかけています。

こんな風に書くと、老人が同じ思い出話を繰り返しているみたいに聞こえてしまいますが、そういう基調に混じって「アンパンマンの友達が愛と勇気だけなぜなのか?」とか、なかなかどうして鋭い話も入ってくるので目が離せないのです。

この本は、戦争体験があるような古参のマンガ家が生涯を振り返る資料ではないし、強烈なメッセージを含んでいるかというと、それも違うような気がします。でも、老人然とした大家が講釈をたれるのではなくて、「気がついたら年取ってたよ」というような気さくな人生の先輩が「老人になるっていうのはこんな感じだよ」と語りかけてくれるような本です。


口絵には詩が添えられている。本書のイメージとぴったりだった一編をご紹介

詩の後半がこちら

上の詩と同じく、このあたりに「愛と勇気だけが友達」の理由が…

過程もさることながら、「幸せだった」と思える人生ほど素敵なものはない