筒井康隆が書いた! 直木賞選考に当たり散らしながら同時に見事なキャラクター小説である傑作
更新日:2013/10/29
村上春樹が芥川賞を取っていないことにはびっくりするが、同じくらい信じられないのは筒井康隆が直木賞を取っていないことだ。
候補にはなっているのである。だが受賞できなかったのはどうやらSF小説だったかららしい。理由は全是分からないのであるが、SFは極端に分が悪い。ミステリーなら受賞の圏内に入るのに、SFは「SFだから」という根拠にもならない根拠で落とされがちなのである。
当然筒井康隆は怒った。怒り狂って、あんなイケズの人だから、直木賞のことを小説に書いてしまった。それがこの本なんである。
世の中には「めった斬り」というものがあって毎年2回不穏な空気があの辺から流れ出てくるが、「文学賞殺人事件 大いなる助走」にも負けず劣らずの過激でナンセンスで危険な批評精神がいっぱいにみなぎっている。そりゃそうだ、ムチャクチャいわれて落とされた本人なのだから。
大手企業の大徳産業に勤める市谷は会社を題材に、暗部まで含めた私小説にして企業小説を書き、地方の同人誌「焼畑文芸」に発表する。それが東京の出版社の目にとまり、エンタテインメント小説の最高峰の文学賞にノミネートされる。担当の編集者のアドバイスにより、選考委員のもとを訪ね、屈辱的な仕打ちに耐え、ひたすら受賞を待ちわびる。だが、開けてみれば結果は落選で、選考委員の選評ときたら全く読めていない、意味不明、こじつけ、読んでないのが丸わかりをさらけ出していた。我慢の限界を超えた市谷は、ある行動に踏み切るのだった。
これ凄いのは、選考委員の名前はまるで別物に書き換えてあるとはいえ、よく読むと誰をカリカチュアライズしてあるのかほぼ推定できてしまうことだ。
いいのだろうかこんなことを書いて、とこっちが不安になってくるが、またそれが面白さの根っこでもあるのだ。例によってうねるがごとき筒井の文体で書かれた大傑作。
こういうレロレロ言葉は相変わらず笑える
市谷は「焼き畑文芸」の編集者に会うがなかなか食えないやつだった
同人誌という文芸の特殊ぶりも描き出す
市谷の処女作は大手誌に載ることになり、直升賞の候補にも