いとうせいこうの枯れても、咲かなくても、楽しいガーデニング
公開日:2013/11/2
私は何事も頑張ればそこそこの状態には持って行けると信じているほうですが、ガーデニングだけは人並みにできるようになる自信がまったくございません。なにしろ雑草のように強いといわれるローズマリーも枯らしたのです。それをガーデニング好きな人に告白すると、相手は大抵黙り込み、私も黙り込み、しばらくの沈黙ののち話題が変わる…ということがしばしばあり、切り花以外の植物は敬して遠ざけたが無難と心得ておりました。
そんな私がこの本を読んでみようと思ったのは、『想像ラジオ』が素晴らしすぎたのと、小説家、タレント、ミュージシャンと多方面で活躍中で多忙なはずの著者がどうやってガーデニングを成功させているのかが気になったため。ちなみに著者はガーデニングという言葉は使わず、園芸と仰り、ご自分のことは「ベランダー」と称されています。
しかし読んでみると、あらあら、ずいぶん枯らしてらっしゃいますよ、この方も! っていうか、枯らしてもよかったんだ! とある意味目から鱗。次々いろいろな植物に果敢に挑戦され、花を咲かせた暁にはそれを心から愛で、枯れたら枯れたで悲しみつつも園芸そのものをやめたりはしない。育成が難しいといわれるちょっとお高い花も買ってみるが、雑草も育ててみる。著者のなんでも楽しむ姿勢と花を描写する文章の美しさ、面白さに癒されました。グズマニア(!)など、知らない名前の植物について画像検索しながら読むのも楽しかったですが、つられてうっかり何かしらの鉢植えに手を出しそうで心配です。
夜顔の開花を待っているときの描写。動きが感じられて、しかも美しい。名文です
ほかの植物の鉢に自然に生えてきた雑草だけ別に植えてみた。ありえない。しかも雑草は弱かった。ありえない
(C)いとうせいこう/毎日新聞社