『ジョジョ』ファンも必読! 目からウロコのホラー映画論

更新日:2013/11/1

荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 集英社
ジャンル:趣味・実用・カルチャー 購入元:BookLive!
著者名:荒木飛呂彦 価格:648円

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世の中には二通りの人間がいる。
ホラー映画を好む人間と、ホラー映画は大の苦手という人間だ。前者は「これほど面白いものはない」と不気味なポスターを眺めてにやにやしているし、後者は「わざわざあんな気持ち悪い映画に行くなんて、最低!」とそんなホラーファンに白い目を向けている。

両者のあいだには深くて暗い川があって、21世紀の今日になってもその距離はなかなか縮まらないのだ。そんな状況に一石を投じる、素晴らしい本が現れた。あの『ジョジョの奇妙な冒険』の著者が書きおろした、『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』である。

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著者の荒木氏は1970年代からずっとホラー映画を観つづけてきたという、大のホラー映画ファン。本書はそんな荒木氏が、愛してやまないホラー映画の奥深い魅力を熱っぽく語っている。


 

荒木氏によれば、ホラー映画には「癒やし」の効果があるという。癒やしといっても、身体のコリがほぐれるとか、いい匂いがするとか、そういう類の癒やしではない(あたりまえか)。

ホラー映画とは、いわば究極の不幸を描くジャンルである。映画のなかで、登場人物たちは怪物に襲われたり、殺人鬼に追われたり、ゾンビに囲まれたりして、それはそれは怖ろしい目に遭う。

そんな最悪な状況に触れることで、わたしたちは世界の怖さをあらためて知る。ホラー映画を観ることは、人生にこれから訪れる恐怖の「予行演習」につながるのだ。そういう恐怖に対して、ホラー映画は乗り越えろ、とかがんばって打ち克て、とは決していわない。むしろ「死ぬときは死ぬんだらさ」とポンと肩を叩いてくれる。そのことで気持ちがどこか楽になる。

優れたホラー映画には、「現実世界の不安からひと時の解放をもたらしてくれる」、そんな癒やしの効果があるのだ。うーむ。唸りました。

ホラーというジャンルの魅力をここまで的確に、分かりやすく説明してくれた本がこれまであっただろうか。「ただ“美しい”“正しい”だけの作品には、決定的に“癒やし”の要素が不足しているように僕は感じます」と指摘にも、ウンウンと頷いてしまった。そうなのだ。ホラー映画のもつ独特の魅力は、他のジャンルの映画ではカバーできないものなのだ。

こうした持論のもと、本書では著者偏愛のホラー映画約100本を紹介している。 その紹介文がまたすばらしい。まるでDVDを再生しながら、「ほらここに注目! ここが面白いよ!」と身ぶりをまじえて解説してくれているような名調子なのだ。ホラー映画の分類や、テクニックの分析もとても親切で、つくづく著者はホラーを愛しているのだなあ、と感動する。

ホラー映画の解説書というと、ホラーが大好きなマニアに向けて書かれたものが多いが、この本は非ホラーファンに対しても、開かれたスタンスで書かれている。ホラーの面白さをひとりでも多くに伝えたい、という荒木兄貴の思いが脈打っているのだ。ホラーという言葉を聞くのも苦手、という人でも、本書を読んだら絶対、DVDショップのホラーコーナーを覗いてみようかな、という気にさせられるはずだ。


描き下ろしのホラーなイラスト多数!

「かわいい子にはホラー映画を見せよ」名言です

ホラー映画に対する4つの反応。あなたはどれに当てはまる?

第1章はホラーの王道「ゾンビ映画」から

巻末には掲載ホラー映画の一覧表があって便利
(C)荒木飛呂彦/集英社