“感動”では済まされない、血と家族の物語

小説・エッセイ

更新日:2015/2/8

ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 文藝春秋
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著者名:奥野修司 価格:802円

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公開中の映画『そして父になる』は第66回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞、多くの映画人から「感動した」との絶賛を浴びた。赤ちゃん取り違えを題材にしたこの映画には、参考文献となったノンフィクションがある。奥野修司『ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年』がそれだ。

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昭和52年の沖縄、伊佐重夫・智子夫妻(以下、名前はすべて仮名)の6歳の長女・美津子が学校で受けた血液検査を持ち帰ってきた。結果はA型。偶然これを見た智子の姉はあることに気付く。重夫はB型、智子はO型、この組み合わせでA型の娘が生まれるはずがない。出生先の病院に問い質すと信じられない答えが返ってきた。

「交換されているのは間違いないでしょう」

美津子は伊佐夫妻の子ではなく、病院で取り違えられた他人の子だったのだ。病院の調査で美津子と取り違えられた子、すなわち伊佐夫妻の実の子どもは城間照光・夏子夫妻の娘・初子であることが判明する。2つの家族は対面し、子どもの交換の話が持ち上がるのだった。血か、6年間で培った情か。本来、秤にかけられるはずのないものに苦しめられる両家族の姿が痛ましく綴られる。

赤ん坊取り違えが多発したのは高度成長期であるが、その理由として本書は戦後アメリカ文化の流入によって施設分娩が急激に増えたのに比し、病院のスタッフ数が足りずミスを引き起こしやすかったことを指摘する。取り違えは豊かさの影に生まれた負の産物であり、その犠牲者として伊佐家・城間家を描く意図が著者の奥野にはあったはずだ。

だが奥野は2つの家族を追う内に取り違えとは関係のない、もうひとつ別の“ねじれた絆”が隠されていることに辿りつく。その歪な家族のかたちが垣間見えた時、本書は取り違え事件のルポに留まらない、「家族の定義とは」という答えのない問いを鋭く突きつける物語として立ち上がるのである。

映画を観た方もぜひ読んで欲しい。感動のひとことで安易に片づけられない、血と家族の問題を投げかける一冊だ。


伊佐家・城間家の家系図。後半でこの家族関係がクローズアップされることになる

伊佐智子は取り違え発覚後から日記をつけ始める。それは生々しい心の叫びの記録となった

昭和32年から46年までの赤ちゃん取り違え事件発生数。実際には300件以上あったとの説もある