『ショムニ』原作者による、頭に寿司ネタを乗せた小さな女の子が届ける癒やしの物語

更新日:2013/12/17

寿司ガール 〈1〉

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 新潮社
ジャンル:コミック 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:安田弘之 価格:453円

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ドジでのろまな女の子が、逆巻く逆境の波をものともせず、手強いグルメの舌を果敢に待ち受けて、みごと日本一の寿司職人になるまでの青春ストーリー。そんな『あまちゃん』みたいなけなげな物語…、ではまったくない。

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でも、登場人物は不器用だったり、淋しかったり、がんばりすぎだったり、寿司だったりする。えっ、登場人物が寿司? そう寿司なのだ。

コハダ、イクラ、スズキ、などなど寿司のネタを頭に乗せた小さな女の子、というか寿司の妖精みたいなものだろうか、彼女たちと出会ったさまざまな職業の女の人の日常と心理を、小憎らしいほど巧みに描く、そんなオムニバス漫画である。

著者は『ショムニ』の原作者・安田弘之。複雑怪奇でいてキュートな女性心理を、女性作家以上にリアルに描けるまか不思議な作家だ。

ある日、本当は看護師になりたかったSMの女王様・なつみは回転寿司で飲んだくれ、寿司を持ち帰った。家に帰ってよくよく見ると、それは頭にコハダをのせた細面の美人、コハダさん!

コハダさんは、回転台の上で乾燥しかけていた自分を救ってくれたなつみに恩を感じているらしい。とりたてて何かをしてあげるわけではないが、男運がなく、一人で誕生日を過ごしたり、中絶を余儀なくされたり…のなつみの傍らにいつもいる。一緒に過ごすうち、コハダさんはなつみについてだんだん分かってきた。あけっぴろげな性格であること、色んな理由で夢を諦め、でも自分なりの方法でたくさんの人を癒していること。

なつみも不思議に感じていた。どんなに辛いことがあっても、コハダさんがといると心が落ち着くこと。なんだか楽しいこと。すさんだ生活の後、なつみは病気になるが…。

あるいは男とおしゃれにしか興味のないスイーツ脳の奈月はトリ貝さんに出会い、自分の本当の姿に気づいてゆく。また、人の痛みが分からず犯罪を繰り返す咲はアナゴ軍団に出会う。捨てても捨てても無数のアナゴ軍団は彼女のまわりを走り回り、「反省しない」「関係ない」とつぶやく悪辣な彼女を悩ませる。だが、女達の人生は寿司ガールによって、少し、変わっていくのだ。

ファンタジーといえばファンタジーなのだろう。不思議かわいい妖精・寿司ガールが問題を抱えた女達に寄り添うことで、自分に見栄を張って、心に嘘をついていた彼女たちを解放してやる物語だ。

寿司ガールたちが、積極的にはなにも働きかけないというところが素敵だ。ゆったりと、穏やかで、さもなければやんちゃでお茶目な寿司ガールたちのナチュラルな魅力にぜひ癒やされていただきたい。


なつみの生活はすさんでいた

エジプト女王のいでたちにイクラをのせたイクラパトラ様

かんぴょう巻の恬淡とした姿が憎らしくも救いでもあった

母親を見習って「いい子」でいたわたしのところに「マグロ女」がやってきた

ゴミ屋敷に暮らす「わたし」はキノコになりたいと思っていた

カレイちゃんと一緒にいるとき、いつものインスタントラーメンの味がひと味違った

「私」は自分を幸せだとだましていた

そんな「私」をコーンちゃんは変えてくれた