親しい友が、社会復帰した元受刑者だと知ったら…あなたはどうしますか?

小説・エッセイ

公開日:2013/11/20

友罪【電子特別版】

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 集英社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:薬丸岳 価格:1,439円

※最新の価格はストアでご確認ください。

ずしんと来る物語だ。差別はいけない。そんなことは分かっている。罪を償った者の社会復帰を妨げてはいけない。そんなことも分かっている。でももしあなたの親しくしている人が、大好きな同僚が、実は過去に日本中を騒がせた猟奇的な少年犯罪の犯人だったら……あなたは同じように付き合えますか?

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物語は、ジャーナリストを目指しながらもバイト先を辞めることになり、半ばネットカフェ難民となった益田が寮のある町工場に一時的に就職しようとする場面から始まる。益田と同じときに、その町工場にはもうひとり就職志望者がいた。鈴木という、かなり暗い感じの青年だ。とりあえずは二人とも試験採用となり、共に寮暮らしを始める。

最初は人を寄せ付けない感じだった鈴木も、少しずつ益田や他の工員たちに心を開き始める。変わったところもあるけど、いいやつだ──益田はそう感じ、鈴木は彼を受け入れてくれた益田のことを親友とまで考えるようになる。ところが益田は、ひょんなことからある疑念を抱くようになる。鈴木の過去に何か秘密があるらしいことは前からわかっていたが、もしかして彼は、世間を騒がせた有名な殺人事件の犯人なのではないか? 調べてみるとその事件の犯人は既に出所して実社会に復帰しているらしい。そして様々な証拠が、益田の疑惑を裏打ちしていく……。

また、鈴木にはこの工場で美代子という恋人ができる。美代子は、実は過去に男に騙されAV女優をしており、今その男から脅され続けている。助けてくれたのが鈴木だ。鈴木は美代子の過去を知っても変わらず側にいた。しかし彼女もまた、鈴木が過去に殺人を犯していたと知る。

親友とまで思われていた同僚。そして恋人。それだけ近い場所にいながら、彼の過去を知った二人は戸惑う。自分にも過去があるから、彼を切り捨てることはできない。しかし過失致死や、何か酌むべき情状があっての殺人ではないのだ。幼い子どもを、ただ興味から残虐に殺した犯人である。今も遺族の傷は癒えていない。ネットでは今も彼を捜して粛清をという書き込みがある。だけどそれを知るまでは、自分は確かに彼のことが好きだった。自分は今の彼を好きになった──。

自分に置き換えて考えてみて欲しい。自分を鈴木に、美代子に、鈴木に置き換えてほしい。いや、それだけではない。鈴木を雇った町工場の経営者に、益田に鈴木の記事を書くよう迫った週刊誌の記者に、そして鈴木に殺された子どもの親に、自分を重ねて考えてみて欲しい。模範解答はあるのだろうか。考えれば考えるほど、正解などないような気になる。

過去は消せない。犯してしまった罪は、いくら反省しようが、償おうが、なかったことにはできない。しかし友なら、何かができるのではないか。それを妨げるものは何なのか。感動とともに、思い宿題を突きつけるラストを、どうかじっくり噛み締めて欲しい。


巻末には電子書籍特別付録の著者インタビュー付き