あっという間にみやびな世界へタイムトリップ

小説・エッセイ

更新日:2013/12/26

はなとゆめ 電子ビジュアル版

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : KADOKAWA
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:冲方丁 価格:1,836円

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「春ばあけぼの やうやう 白くなりゆく山ぎは~」というあの有名な一説を口ずさむだけで、すっかり平安時代にトリップしてしまうものです。

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その『枕草子』を記した歌人、清原元輔の娘である清少納言。彼女は2度の結婚をし、子供を生み、その子供は父親の則光のもとに行ってしまうという状況の中で、いわば「就職」。内裏というこの世の浄土に女房として仕え始めます。仕えるは一条帝の妃、定子のもと。華やかな内裏での生活。初めてのことだらけの毎日を過ごしながら、少しずつ、清少納言がその歌の才能と機知溢れる観察眼を発揮してゆき、宮中の華の一部となってゆく様子が、現在のサクセスストーリーのように簡単に読めてしまうのだから、すごい一冊です。

しかも古文の気品を十分に感じさせる地文。古文の現代語訳は数多くありますが、この作品のように、悠々と、平安時代の「あの」雰囲気を常に彷彿させながら、読み物として現代の言葉を繋いでゆくものは希有なのではないでしょうか。始めこそ、登場人物の名前や関係に少々戸惑うものの、あっという間に読者は「ゆめをみた」私、清少納言に感情移入してゆきます。「あこがれ」という気持ち。清少納言の中宮様を慕い、尊敬してやまない心。殿方との胸高まるような歌のやりとり。こんな比較はナンセンスかもしれませんが、現代人が携帯チャットで夢中になっているのと同様、10世紀もやっぱり男女は書いた言葉に興奮したり、落胆したり。でも歌にはその人の人となりが凝縮されていて、短い歌から人物を計り知るという習慣をしみじみ、美しいと思いました。

平安時代の人間模様に溢れるゆるやかな「間(ま)」がこの現代語版でも十二分に楽しめます。著者は相当にテクニシャンながら、「清少納言が取り憑いた」ような情熱を感じます。それほど、読みやすい。ライトノベル、SFも書く作家だからこその型の破り方なのでしょうか。常に映像が頭に浮かんでくるような上手さ。表紙も美しい!強くお薦めします。


こういう瞬間を切り取るセンスも、素晴らしい

清少納言の観察眼は内裏でますます研ぎすまされて

人生最大の「モテ期」が来ても、清少納言はきっぱりしてます。カッコいい