人間って結構曖昧に生きてても、大丈夫 【井浦新×窪塚洋介 映画上映中】

小説・エッセイ

公開日:2013/12/12

ジ、エクストリーム、スキヤキ

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 集英社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:前田司郎 価格:1,337円

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4人の男女が「スキヤキ」をすべく、車に乗った。旅に出る。4人のうち3人は大学の同級生で映研仲間。仲間だったひとりは死んでしまった。峰村の死から、何かが変わってしまったそれぞれが、十数年ぶりに「スキヤキ」を囲む、というストーリー。単純極まりないと断定してしまっても、それほど特別でもない3人の同級生の心の綾を繊細と読むかも、ま、実は読者がどんな大学時代や友人関係を育んで来たかによります。感情移入できれば、とてつもなく懐かしいような、甘酸っぱいような心に残る作品になるのでは。

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なんといっても、タイトルがいいですね。『ジ、エクストリーム、スキヤキ』。カタカナの並びもよい。唐突なスキヤキ、もいい。仕事を辞めてバイト生活の洞口。大学時代つき合っていた京子と、仲間だった大川と十数年ぶりに会うことになる。合羽橋で衝動買いしたスキヤキ鍋を使うために、普段とは違うスキヤキを切望する洞口。野外でスキヤキするつもりが、ひょんなことから京子の友人も乗せて、一泊旅行に。体が触れそうで触れないし、友人関係の軸に迫りそうで、迫らない。厚みがあるようなないような、深いような浅いような不思議な重量感の会話が全編に漂っているのが印象的。いうならば、こう、ヒッピーの格好を一度したら楽でやめられないというような感覚。

作家の断定も、確固たる道徳観もなく、決意溢れる登場人物や劇的な演出もなく、「なんとなくこんな感じ」で進むお話といえばいいでしょうか。登場人物が友人たちとの対比でしか掴めないのも特徴かも。彼らの家族も生い立ちもほぼわからないので、読者は自分の好きな色を塗ることができる、という感じ。その凡庸性が誰もの青春の一部になりうる、そんな世界観。人間って相当曖昧に生きてるんだという肯定感が残ります。

11月に映画化されたばかり。キャスティングも井浦新、窪塚洋介とよさそうです。さて、実写ではどんな色の世界になっているのでしょうか。


確かに、十数年ぶりに友人から電話をもらったら、まず戸惑う

峰村の死が仲間にもたらしたもの

簡素な会話がなぜか魅力になるのも、この作品の特徴かも

相当に草食な世界