これぞ「進撃のオヤジ」! 年末にぴったり、大人気フロスト警部の初登場作

小説・エッセイ

公開日:2013/12/25

クリスマスのフロスト

ハード : iPhone/iPad/Android 発売元 : 東京創元社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:Kindleストア
著者名:R・D・ウィングフィールド 価格:※ストアでご確認ください

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新刊が出るたびに『このミステリーがすごい!』などのランキングで必ず上位に食い込む、大人気シリーズが電子書籍で登場だ。既刊から順次電子化され、今月(2013年12月)、最新刊『冬のフロスト』の電子化をもって今日本で読める長編はすべて電子書籍になった。本書はそのシリーズ1作目。不動のフロスト警部人気は、ここから始まった。

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舞台はイギリスの田舎町、デントン。クリスマスも近いというのに、大小さまざまな事件が相次いでいる。たとえば日曜学校の帰りに少女が行方不明になったり、銀行の入口を鉄梃(かなてこ)でこじ開けようとする人物がいたり、警察署の内部で小銭がなくなったり。デントン警察は休む暇もない。これらの事件にあたるのが、われらのジャック・フロスト警部だ。

だがしかし、このフロスト警部、ヒーローというにはあまり個性的。署の駐車場で署長の自慢の新車に衝突して知らん顔、デスクの上はぐちゃぐちゃで書類仕事は溜めっぱなし、セクハラ・パワハラ当たり前、仕事中の鑑識課員に背後からしのびより、指を突き立てて(どこに、とは聞かないように)一言「浣腸は好きかい?」──好きも何も、やってから言うな──しかもワーカホリックで人使いも荒い。とにかく下品ではた迷惑なオヤジなのである。

人手不足の折り、このフロスト警部が、大小さまざまな事件をすべて一手に担当することになるからさあたいへん。今何を調べてるんだったか、この証言者は何の事件だったか、フロストも読者も大混乱。しかし不思議なことに、げらげら笑いながら読んでいくうちに、なんだかうまい具合に繋がった? あれ? おや? と、驚く間もなく最後には衝撃の展開が!

相次ぐ事件を右から左にさばきつつ、やろうと思ったのに邪魔が入り、急いでいるのに別件が飛び込み、現場に行かなくちゃいけないのに書類を提出しろと言われ、普通の人ならキレそうな状況をフロスト警部は文句をいいつつ、不真面目に下世話に下品にガシカシとこなしていく。まさに進撃のオヤジ。その様子が楽しくて面白くて、なんだか「小さいことなんか気にすんな」「何とかなる!」とおおらかな気持ちになるのである。

ちなみにジャック・フロストというのは日本語になおせば冬将軍という意味を持つ慣用句。既刊すべて冬の話なのはそのせいか。坊主も走る師走の気ぜわしさも、フロスト警部の忙しさに比べたら何のその。果たしてデントンの町に平和なクリスマスは訪れるのか? われらがフロスト警部の八面六臂の活躍をご堪能あれ! ──いや、けっこうサボってるから四面三臂くらいにしとこう。


創元推理文庫の電子化は、紙の文庫同様、とびらに粗筋紹介あり

訳者あとがきも収録。文末にはシリーズリストも。(画像はリストの途中までです)