京極夏彦の新シリーズはおいしいとこ取り!?

小説・エッセイ

公開日:2014/1/2

書楼弔堂 破暁 探書壱 臨終 (集英社文芸単行本)

ハード : iPhone/iPad/Android 発売元 : 集英社
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著者名:京極夏彦 価格:※ストアでご確認ください

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京極夏彦の新シリーズ『書楼弔堂 破暁』(しょろうとむらいどう はぎょう)が刊行された。電子書籍版では各章ごとの分冊版でも配信されている。

その第1章「探書壱 臨終」を読んだ。

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明治20年代。江戸の空気がまだそこかしこに残る東京が舞台。主人公は高遠という男で、彼は煙草会社を休職し、療養という名目で妻子ある身にもかかわらず別宅を借り、ぶらぶら暮らしている。そんなうらやましい暮らしをしている高遠が、ある日散歩の途中で馴染みの本屋の丁稚と出会うところから物語は始まる。

この丁稚とのやりとりがとてもおもしろい。会話の中でこの時代の本のあり方があれこれうかがえる。欲しい本の注文はどうするのか、発送は誰がやっているのかなど。この場面で語られるのは一部の恵まれた身分の人だけの話かもしれないが、庶民は普通に読書をするのだろうか、など興味が広がっていく。

高遠はその丁稚にある古本屋を紹介される。それがタイトルにもなっている「書楼弔堂」だ。3階建ての灯台のような建築で「弔」という一字が記された半紙が店先に貼られているという異様な佇まい。

弔堂の丁稚が出てきて高遠に言う「お探しの本がお決まりでないようでしたら、当店はお勧め致しません」。その理由を聞くと、迷うだけだという。京極作品に出てくる古本屋なら迷って迷って迷いつくしたいと思ってしまうけれど、この主人公も「迷うと云うのは余計に好いじゃないか」と答え、その店内に足を踏み入れる。

そしていよいよ古本屋の主人が登場し、高遠の後から、新たにある客が訪れるのだが――。

弔堂の主人は「本は墓のようなものです」と高遠に言う。そこから本を読むということ、本を手に入れるということ、さまざまなことを語る。「本当に大切な本は、現世の一生を生きるのと同じ程の別の生を与えてくれるのでございますよ。ですから、その大切な本に巡り合うまで、人は探し続けるのです」これがぶらぶら暮らしをしている高遠の人生を変えるフレーズになるのだろうか。

この作品は、もちろん本の話だけではない。京極作品のファンが期待する謎解き、付き物落としのあのカタストロフィはしっかりと味わえる。薀蓄も少なめで、それはそれで京極作品の魅力のひとつが減ることにはなるのだが、妖しい古本屋「書楼弔堂」の雰囲気が映像的に心に残るという効果に繋がっている。

過去の作品を読んでいるのならニヤリとさせられる箇所がいくつか出てくる。ファンなら外せないシリーズだろう。しかし、この新シリーズ『書楼弔堂 破暁』を読んで欲しいのはまだ京極作品に触れたことがない読者。分冊された各章だけでも京極作品の醍醐味を味わえるおすすめの作品だ。


Amazonどころか取次ぎも無い時代です

「弔」看板なのだろうか屋号なのだろうか

弔堂の店内描写 上までずっと本です